「アナタハンの女王」と呼ばれた女性の生涯 日本兵32人に囲まれ、そのうち5人と“結婚”、4人は不審死か別の男に殺害され…異様な孤島生活とは
6年間で5人の男と“結婚”
兵士や軍属たち、菊一郎ら32人とのアナタハンでの6年間の生活で、和子は5人の男と“結婚”した。勿論、正式な結婚ではなく、ピストルを所持する“権力者”に強引に娶られたり、争いを恐れた男たちが合議した末、次の夫が指名されたりしたのだ。そのうち4人は明らかに殺害されたり、不自然な事故で命を落とした。
最初の“夫”菊一郎は和子と同居して3年3ヶ月目に、和子より4歳年下の「兵助丸」のコックYに射殺された。後に和子は、その“地獄”を田中にこう報告している。
「私たちの小屋にYがやって来て3人でヤシ酒を飲んだの。Yはかなり酔って、『帰れないから泊めてくれ』というので3人で川の字になって寝たんです。異様な雰囲気を感じて目を開けると、Yは菊一郎に跨ってビストルを発射していた」
菊一郎の殺害後、Yは和子に「ワンピースを脱げ」と命じ、男の“目的”を達したという。菊一郎の遺体は小屋の近くに埋められたが、和子は夫の亡骸の上にワンピースをかけたとも告白した。
殺し合いの果てに…
菊一郎の死後、男たちが集まって会議が開かれた。和子が一人になれば奪い合いが益々エスカレートするのは目に見えていた。和子に次の夫を選ばせるための会議だった。
「『誰か一緒になりたい男はいないか』と和子に聞くと、菊一郎を殺したYを指名したんだ。これには一同、唖然とした……」(田中)
後に和子は、“夫選び”の理由を泣きながら田中に説明した。
「他の人を選べば、ピストルを持っているYに、その人がまた殺される。仕方の無いことでしょう……」
ある時、和子は田中に強い口調で詰め寄ったことがあった。
「私も生身の人間です。男たちの要求を拒否すれば私も殺されるわ。殺し合いは男たちの問題でしょ。私は生きて祖国へ帰りたい」
これは真実の話だと私は思う。ある“信念”が常に和子の心奥に垣間見える。男たちの争いを自分の力では止められないことを、実は和子自身が一番分かっていたのではないか。事実、和子は生還した。
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