ヒグマが人間6人を食べた三毛別事件を描いた 吉村昭「羆嵐」が今も読み継がれる理由
《音がした。それは、なにか固い物を強い力でへし折るようなひどく乾いた音であった。それにつづいて、物をこまかく砕く音がきこえてきた。/(略)それは、あきらかに羆が骨をかみくだいている音であった。/呻き声はきこえなかった。家の内部が静まりかえっているのは、人がすでに死亡し、羆が遺体を意のままに食いつづけていることをしめしていた。》
ホラー小説ではない。これは“ドキュメント”、つまり実際に起きた出来事を、そのまま書いているだけなのだ。ヒグマが人家を襲い、住民を“食べて”いるところである。...