東スポが「餃子」「からあげ」「ポテチ」を売る新聞社に…57歳「新社長」に聞く、読者を元気にさせるビジネスの秘訣
紙には紙の良さがある
――社長はずっと編集畑ですが、他業務の知識について不安や心配はありませんか?
「それはありません。営業や販売のことは分からないので、一から教えてくださいというスタンスで皆さんとお話しています。記者の時もそうですが、知ったかぶりは禁物。知らないことや分からないことは、その場でどんどん質問して理解するようにしています」
――仕事帰りの電車や飲食店で、夕刊紙を広げる読者の姿がめっきり減りました。この状況をどのように見ていますか?
「私が入社した1991年当時からすると、とても考えられない光景です。しかし、時代は変化しています。『新聞を買ってください』と無理強いはできない。よく周りにも言うのですが、『新聞を作っている会社』ではなく『コンテンツを作っている会社』という意識を強めてほしい。そのコンテンツを紙に載せるのか、あるいはネットなのか、それとも違うものか。その意識付けが大事だと思うのです」
――紙にこだわっていると、時代に乗り遅れる?
「ただ、紙の良さもあるんですよ。ウチの強みに競馬があります。確定版を載せる金曜・土曜の下落率は数パーセントと、他社に比べて圧倒的に低い。伝統的に多くの記者を配して細かい情報を取り、予想もしている自負がありますが、『なんで競馬は紙なんだろう?』と若い記者に聞いたんです。理由は明快でした。スマホでも情報は取れるけど、予想はできない。ビッグレースになればフルゲートで18頭が出走します。新聞はその全ての馬を一覧表にしていますが、スマホだといちいちスクロールしないといけないし、気になったことをメモできない。実際に競馬場に行ってみると、ほとんどの人がウチや専門紙を開いて予想しています。こういうところは紙の強みではありますね」
――競馬の予想にはビールと餃子が欠かせない……それが東スポ餃子の発端になったそうですが、東スポといえばプロレスもあります。
「はい。他紙誌にはいない名物記者がウチにはいて、彼らの記事にファンがしっかりついている。ビッグマッチの翌日は、かなりいい数字を出しています」
――社長の古巣である芸能はどうでしょうか?
「これはかなり厳しいというか、難しいというか……。顕著な例として覚えているのは、酒井法子さんと押尾学さんの騒動(共に2009年)から島田紳助さんの引退(2011年)あたりまでですね、一つのネタに続報を打ち続けることで新聞が売れたのは。これは23年にWBCで日本が優勝した時も、阪神が優勝・日本一になった時も同じなのですが、その翌日は物凄く新聞が売れます。じゃあ、この関連ネタで何日か行くぞといっても売れません。響くのは一瞬で、続かないんです。芸能は特に、その傾向が顕著です」
――23年はジャニーズ事務所がなくなるという、日本芸能史にとって非常に大きな出来事がありました。記者時代の平鍋社長はじめ東スポさんは、ジャニーズのスキャンダルは何度も記事にして、忖度しない姿勢で来られたわけですが、この動きをどうとらえていますか?
「騒動の渦中で、旧知のジャニーズ幹部から電話をもらいました。現役時代、記事を巡って何回もやり合った相手です。何だろうと思ったら『あんなに面倒を見たのに、テレビの連中は手のひら返しがひど過ぎる。それに比べて、おたくとは何度もやりあったけど筋が通っている』と初めて褒めてもらいました(笑)。是々非々で対応してきたウチの姿勢はブレていないというのです。例えが適当かどうかはわかりませんが、ルパン三世と銭形警部のような関係だったんですけどね」
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