“卒魚式”で涙する人も “令和のお魚王子”が作った「幼魚水族館」唯一無二の魅力
静岡県駿東郡清水町にある「幼魚水族館」は、魚の子ども=幼魚を展示する世界でも類をみない水族館である。館長を務めるのは、金髪ロングヘアーにセーラー服姿で魚の魅力を伝え、“令和のお魚王子”とも呼ばれる鈴木香里武(かりぶ)さん(31)だ。(全2回の1回目)
幼魚に特化した水族館
2022年7月、複合商業施設サントムーン柿田川内に開館した「幼魚水族館」には、ミナミハコフグやタツノオトシゴ、サクラダイなど、100種類以上の幼魚が展示されている。
「ショッピングモールのフロアの一角にある100坪にも満たない小さな水族館ですが、他の水族館では見られない幼魚に特化した展示を行っています。巨大な水槽もなく、迫力のある展示ではありませんが、2、3時間滞在したり、何度も足を運んでくれたりするお客さんもいます。幼魚は1週間経つ間にも姿を変えるので、成長する過程も楽しむことができる場所です」
魚は、成長段階によって呼び名が変わる。卵からかえったばかりの魚は「仔魚」で、プランクトンなどを食べるようになると「稚魚」と呼ばれる。そこからさらに成長し、自力で泳ぐ力をある程度身に付けたものの、まだ十分には成長していない状態が「幼魚」である。
「開館した当初は、小さな幼魚にどれだけ興味を持ってもらえるかという不安がありました。ただ、幼魚は、普通の水族館ではバックヤードで育てられていて、展示される機会はまずないので、他には無い幼魚に特化した水族館が必要でした。体が小さい分、水槽に顔を近づけてじっくり観察しなければなりません。そうすると1つの種というよりも個体として観察してもらえ、1匹1匹の可愛らしさに気づいてもらえるようです」
感動の“卒魚式”
他にはない展示で着実に幼魚ファンを増やし、今春には“卒魚式”も開かれた。
「『育って大きくなった幼魚はどこにいくのか』というのが、実は1番よく聞かれる質問です。種類によっては、数カ月程度で繁殖能力を持つ成魚になるので、新たに捕獲した幼魚と入れ替えます。一度飼育したものを自然に戻すことはできないので、成魚として展示してくれる水族館に譲ります」
最初は数ミリ程度の大きさだった幼魚が立派な成魚になって巣立っていく……それを見守るのも香里武さんの楽しみだ。
「今年の3月にショッピングモールのイベントスペースで開いた“卒魚式”では、幼魚たちの成長を見守ってくれたお客さんと一緒に魚たちを送り出しました。館長の挨拶だけでなく、清水町の町長さんにお祝いの言葉をいただいたり、地元の保育園児に『ありがとうの花』という卒業ソングを歌ってもらったりして立派な式になりました。涙ぐんでいるお客さんもいましたね。巣立ったソウシハギやナンヨウツバメウオ、クサフグなど、13種類69匹の成魚は、いまは八景島シーパラダイスにいます」
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