造船各社の叡智を結集し日本発の環境船舶を造る――三島愼次郎(次世代環境船舶開発センター代表理事)【佐藤優の頂上対決】

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次世代の燃料は何か

佐藤 新しい燃料として有力なのは、やはりアンモニアですか。

三島 いえ、それはまだまだ分からないですね。確かにアンモニアが有力という見方がありますが、問題の一つはアンモニアの量なんです。いま国際海運で排出している二酸化炭素の量は約9億トンです。一方、日本全体では約10億トンになります。

佐藤 それだけ莫大なエネルギーを作る燃料がいる。

三島 ええ、日本全体のエネルギー源に匹敵するアンモニアを船に供給しなければならない。果たしてそれだけの供給量が確保できるのか、そのサプライチェーンはどう作るのかという問題が出てくる。さらには燃料を供給する港があるのか、そしてコストはどうなるのか、なども考えなくてはなりません。

佐藤 そうすると、安定性のある重油からそう簡単には脱却できない。

三島 ただ先ほど申し上げたIMOの方針があります。LNGに転換していくにしても、重油に比べて高々30%ほどの削減しかできません。ですからすぐに限界が来る。アンモニアや水素は排出量ゼロになりますから、いつかはそうなるはずです。もっともIMOは、今年、二酸化炭素の削減について、Tank-to-Wake(燃料タンクから航海まで)ではなく、Well-to-Wake(生産井から航海まで)と言い始めました。だから燃料を変えればいい、というわけでもないのです。

佐藤 航行に際して生じた排出量だけではなく、その燃料自体を作る際の排出量も計算に入れろというわけですね。

三島 そうです。新しい燃料を作る過程で生じる二酸化炭素量も考えなくてはならなくなった。

佐藤 状況はますます厳しくなり、複雑化していますね。

三島 ですから、大きな流れとしては、LNG、それから比較的身近なところにあるメタノール、そしてアンモニアが有力とされていても、まだまだどうなるか、わからないのです。

佐藤 もっともGSCでは、アンモニア燃料船「パナマックスバルクキャリア」を開発しておられますね。

三島 はい。分からないといっても、手をこまねいているわけにもいかない。2030年代からはアンモニアがメインになると想定して開発を進めています。

佐藤 どんな船になるのですか。

三島 バルカーと呼ばれる穀物や石炭、鉄鉱石などを運ぶばら積船で、これをアンモニア燃料で動かします。いままでの船体構造では燃料タンクが収まりきれませんから、デッキの上に大きなタンクを設置します。これにより主要な航路である極東から豪州往復、南米から南アジア片道を想定した量のアンモニアを積めます。

佐藤 アンモニアは液化するわけですね。

三島 ええ、液化アンモニアです。マイナス253度で液化する水素と違って、アンモニアはマイナス33度で液体に変化します。

佐藤 そこは扱いやすい。

三島 ただ安全性は確保しなければなりませんね。また、居住空間については船尾に置いて、同クラスの船と同じ広さにしています。

佐藤 私は小学生の頃、神奈川・横須賀に保存されている「戦艦三笠」を見学したことがありますが、解説員にどこで寝るのか聞いたら、「将校以上はベッドがあるけれども、下士官以下は全員ハンモック」と言われて驚いた覚えがあります。さすがに商船はずっと快適ですよね。

三島 戦艦は武器を載せて戦う船ですから、人にしわ寄せがくる(笑)。商船は荷物を運ぶけれども、やはり船員が大切で、働きやすい環境を作らねばなりません。

佐藤 現在、この船はどんな段階まで進んでいるのですか。

三島 船舶の設計には段階があり、最初にコンセプトを作ります。そしてその後に基本計画をまとめます。この段階でだいたい船のイメージがつかめますが、ここまでを昨年終え、今年はその基本計画をベースにした基本設計を展開しています。

佐藤 設計だけでも、かなり時間がかかりそうですね。

三島 そうですね。基本設計ができると、実際にお客さんとの商談が可能になります。何を積むか、それに合わせ、この部分をこうしたいなどといった細かい点について交渉が行われる。それらを反映させて、次は工場で展開する詳細設計が始まります。

佐藤 GSCはどこまで関与するのですか。

三島 基本設計までです。これを各社に持ち帰ってもらい、お客さんの要望を聞いて詳細設計をするという手順です。

佐藤 実際に船が建造されて、航海に出るのはいつくらいになるのでしょう。

三島 今年度いっぱいで基本設計を終わらせますから、だいたい2027年か、2028年くらいでしょうね。まだエンジンが開発中なんですよ。これは基本設計後に各社が日本や海外にある専門会社に発注するのですが、それが来年末くらいになると思います。

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