「大人はもっとなめられた方がいい」…スピードワゴン小沢一敬が語る、伝説の月9ドラマ「ビーチボーイズ」の美学

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ヘラヘラする方がよっぽど難しい

『ビーチボーイズに憧れて』は、テーマの一つに、「やらない後悔とやる後悔」がある。芸人として、そうした選択を幾度となく迫られただろう小沢さんは、どう思うのか?

「個人的な考えで言えば、やるやらないで迷っていることがバカらしいと思っちゃう。年齢を重ねれば重ねるほど、経験してきているんだから、どっちでもいいんだよね。別に失敗したとしても、一年後に笑い話にできるようにすればいいだけの話。“芸人だからそういうことができる”と思われるかもしれないけど、どんな仕事もそういうものだと思うんですよ」

 どちらの選択をしたとしても、すぐに“その選択をしたことによって生じた選択”が迫ってくる。自分の選択が地続きでつながっている以上、前に進むしかない。

「『ビーチボーイズ』を見ていると、広海って難しい顔をしていない。本当は悩んだり葛藤したりしていると思います。でも、深刻な顔なんて誰でもできますから。悩んでいるときに、ヘラヘラする方がよっぽど難しい。ヘラヘラしていると、なめてくれやすくもなりますからね」

 取材中、返ってくる小沢さんのレスポンスは、どれも軽やかだ。アンサーそのものが深刻ではない。

 だったら、「あきらめる」ことに対しては、どんな見解を持っているのか。どれだけ好きなことであったとしても、芽が出なければ新しい道を探さなければいけない。小沢さん自身、芸人の世界でいやというほどその瞬間を見てきたはずだ。「難しいよね」、少し考え込んでから口を開く。

「その道をあきらめたとしても、人生が終わるわけじゃないからね。とりあえず一度エンドロールは流れるだろうけど、次が始まるから。やっぱり、その人次第になると思う」

「“運が悪かった”は言わない方がいい」

 自分のケースを引き合いに出して、小沢さんが続ける。

「僕は、自分からは何も決めてないんですよ。『M-1グランプリ』に出たのも、『THE SECOND~漫才トーナメント~』に出たのも、(相方・井戸田)潤が“出よう”と言ってくれたから。もっと言えば、東京でお笑いをやろうと誘ってくれたのも潤。今日の取材だって、プロデューサーが受けてくれっていうから“分かりました”だし(笑)。僕は、ホントに決めないでやってきたんですよ。どっちでもいいと思っているから」

 ただ、「運が悪いって自分からは言わない方がいい」と念を押す。

「徳井(義実)くんと話すのは、“結局、俺たちって運が良かっただけだよね”ってこと。先輩たちに聞いても、みんな、“運が良かった”って言う。何かをあきらめないといけないときに、自分で落としどころを付けたい気持ちは分かるけど、“運が悪かった”は言わない方がいい。そう思うと、自分から悪い方向に向かっちゃう」

 難しく考えすぎるな――。そう小沢さんは語る。

「たとえば、“一週間考えさせて”とか言うじゃないですか? 答えを求められて、一週間悩まさせてって言うわけです。でも、僕からすれば、“一週間考えない時間をください”って言っているようなもの。どっちか選んで、うまくいかなかったら、またやり直す。それが一番いい。時間だけは平等なんだよ。もったいないじゃん」

 どちらを選ぼうが、せいぜい左回りが右回りに変わるくらい。だったら、時間を無駄にすることが一番もったいない。

我妻 弘崇(あづま ひろたか)
フリーライター。1980年生まれ。日本大学文理学部国文学科在学中に、東京NSC5期生として芸人活動を開始。約2年間の芸人活動ののち大学を中退し、いくつかの編集プロダクションを経てフリーライターに。現在は、雑誌・WEB媒体等で幅広い執筆活動を展開。著書に『お金のミライは僕たちが決める』『週末バックパッカー ビジネス力を鍛える弾丸海外旅行のすすめ』(ともに星海社)など。

デイリー新潮編集部

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