92歳の母は今夜もカレンダーに斜線を引く…「世田谷一家殺害事件」から23年、高齢の遺族が切望する「生きているうちに真相を知りたい」

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「今日も逮捕の連絡がなかったな」

 声優に代読された節子さんの思いはこう続く。

「事件のことは毎日、連絡が来なかったと斜線を引いておりますが、引きながらいつも思うことは、なぜ子供までも手をかけたのか。また、どうして(家の)明かりがついているのに(犯人は)入ってきたのか。不思議でしょうがないことです。早く犯人が捕まって、私が生きているうちにとにかく真相を知りたいと思っています。そうしないと4人に会っても話すことがありません」

 節子さんの自宅にある冷蔵庫には、カレンダーが貼り付けられている。毎日午前0時を過ぎると、定規を手に鉛筆で日付のところに斜線を引くのが「儀式」だ。事件発生からしばらく経ってこの儀式を始め、斜線が引かれたカレンダーは200枚を超えた。

 節子さんがある時、こう口にした言葉が思い出される。

「やり始めて最初の何年かは悲しみながら引いていました。でもそんな私の姿を見たら、あの子たちも悲しむんじゃないかと思い、努めて明るくするようにしました。もう20年近くこの線を引いています。今日も逮捕の連絡がなかったなあって思いながら」

 節子さんは今も自宅で1人、犯人逮捕の一報を待ち侘びながら、真夜中に儀式を行なっている。

水谷竹秀(みずたにたけひで)
ノンフィクション・ライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。最新刊は『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。2022年3月下旬から2ヵ月弱、ウクライナに滞在していた。

デイリー新潮編集部

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