92歳の母は今夜もカレンダーに斜線を引く…「世田谷一家殺害事件」から23年、高齢の遺族が切望する「生きているうちに真相を知りたい」
一人で帰宅すると感じる寂しさ
埼玉県内の墓園を訪れた節子さんは、墓前で祈りを捧げた後、報道陣の囲み取材に応じた。その直後だった。節子さんは歩いて駐車場へ向かう途中、突如、ふらついて転倒してしまったのだ。頭は打たなかったが、膝を少し怪我した。同行していた関係者たちに支えられた節子さんは「大丈夫です」とはっきりした口調で答え、事なきを得たかに思われた。しかし今年に入り、両足のくるぶしが徐々に大きく腫れ上がった。
「あれ以外に転んだことはなかったから、腫れたのはあの転倒が原因なのかなと思うんですよね。3つの病院に通って薬をつけたら少しは治っていきました。一時期はズボンが入らないぐらいに大きく腫れましたから」
腫れは今も続いており、この影響で今年はほとんど外出できていない。買い物にも行けないため、食品の配送サービスを利用し始めた。
節子さんは現在、埼玉県の自宅で一人暮らしだ。昨年秋からは週3回、デイケアセンターのサービスを受けている。親族が定期的に自宅に様子を見にきて、食事の作り置きを持ってきてくれるが、それ以外は基本的に一人である。午前7時ごろに起床して仏壇に水を供え、朝食を取り、洗濯をしたり、新聞を読んだり、頭の体操のためにナンプレをしたり、日記をつけたり……。殺人事件の被害者遺族として生きる一方、日常生活においては高齢のおひとりさまだった。節子さんが語る。
「デイケアへ行くのは楽しみですね。クイズをやったり運動したりと、スタッフさんが楽しませてくれるんです。お昼の食事も本当に美味しい。でも私以外の方々は、帰宅すると誰か面倒を見てくれる家族がいるんです。だから一人で家に帰って来ると、寂しさを感じる時もありますね」
突きつけられる現実
仏間にはみきおさん、妻の泰子さん(当時41)、長女にいなさん(同8)、長男礼君(同6)の遺影が掲げられており、そこを通るたびに節子さんは語り掛けている。
「今日は寝坊助だったよ」
「明日は○○さんが来てくれるよ」
「おやすみ」
返事はない。
こうした孤独感に加えて、やはり気掛かりなのは年齢とともに感じる体の衰えだ。墓参時の転倒以外にも、家の中を歩いている時にふらついてそこら辺に体をぶつけている。右腕には、その時のあざが複数、残っている。
「血圧が高いからか、くらくらっとなる時があるんです。一度、頭をぶつけてこぶを作ってしまいました。デイケアセンターで報告すると即座に病院に連絡をしてくれ、レントゲン付きの診察をしてもらいました。医師からは“こぶはできているけど、中は大丈夫だよ”と言われてホッとしました」
歳を重ねるごとに否応なく突きつけられる高齢化の現実が、今年の世田谷集会でのメディア対応につながった。
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