92歳の母は今夜もカレンダーに斜線を引く…「世田谷一家殺害事件」から23年、高齢の遺族が切望する「生きているうちに真相を知りたい」

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「事件が忘れられちゃうんじゃないか」

 待機していた報道陣の前に現れたのは、遺族の宮澤節子さん(92)ではなく、朗読劇で節子さん役を務めた声優だった。節子さんに代わり、その気持ちが読み上げられた。

「私のわがままでこれまでのような取材を受けられないこと、大変申し訳なく思っております。ここのところ階段を上るのもつらくなり、また時折ふらつくようになり、特に緊張するようなことがあればめまいがひどくなるような状態なので、このような形にさせていただきました」

 東京都世田谷区の住宅で2000年12月30日深夜、節子さんの長男、みきおさん(当時44)の一家4人が殺害された事件から今年で23年――。命日を前にした12月16日、事件の解決を願う集会が同区であった。【水谷竹秀/ノンフィクション・ライター】

 集まった参加者約150人を前に、事件を題材にした朗読劇「午前0時のカレンダー 残されたDNAへの思い」が上演された。声優らの臨場感あふれる演技とともに事件発生時の様子が再現され、犯人が逮捕されなかった印としてカレンダーに毎日、斜線を引く節子さんの姿や、現場に残されたDNA情報をさらに捜査に活用するため、その運用に関する法制化の必要性も伝えられた。

 毎年同時期に行われる集会にはこれまで、節子さん自らが報道陣の取材に応じてきた。以前は夫の良行さん(享年84)の側で目立たないようにしていたが、良行さんが2012年9月に亡くなって「誰も話す人がいなくなると事件が忘れられちゃうんじゃないか」との懸念から、表に立つようになった。だが、今年は集会には出席したものの、取材については年齢と体調を考慮し、初めて代読という形が取られた。

 実はその兆候がすでに、昨年12月30日の墓参で起きていた。

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