阪神・オリックス「日本シリーズ余話」 岡田彰布が比嘉幹貴を守った“12年前の忘れがたき猛抗議”

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「ホントに話したことがないんです」

 仮に、これを機にボークを取られないよう、フォームやセットポジションのタイミングを変えたとして、それがうまくいかなかった場合には、投球そのもののリズムもおかしくなるかもしれない。

「あの後、監督からは何も言われていないんです。けん制の仕方を変えろとか、そういうことは一切なかったです。僕も、新聞の記事を読んで、そうか、と知ったんです。『けん制で獲ったんや』と先輩たちからは、イジられましたけどね。でも、嬉しかったです。そういう風に、見てくれているんだと思って」

 その持ち味があるから、リリーバーとして、ピンチの場面でも迷いなく、送り出しているという岡田の真意が、その猛抗議の姿で伝わったというわけだ。

 岡田が、選手に直接、言葉をかけることが少ないというのは、阪神監督に復帰した2023年でも変わらず、そのことを阪神の選手たちも明かしているが、比嘉も「ホントに話したことがないんです。初勝利の時に、監督室に呼ばれて『おめでとう』とそれくらいです」と振り返る。

 それでも“指揮官の思い”というものは、その本気の行動、そして時には、怒りというものでも、きちんと伝わるのだ。

「あとは、新聞でコメントをよんで、そうかと思ったり、反省したり。それ、阪神でも変わっていないみたいですね。やり方、変わっていないんですね。一貫しているというか、やっぱり、そこがすごい人なんですよね」

 あの日から、もう12年。

 ブルペンに今も欠かせないベテラン右腕が、己の持ち味を評価してくれたかつての指揮官と、大舞台で対戦する機会が巡って来た。ただ、その日本シリーズでは2試合登板、1回1/3で1失点、防御率6.75と、比嘉らしさは出し切れなかった。

 投手陣が質量ともに豊富なオリックスで、来季15年目を迎える右腕は「今、どんどん若い選手が出てきて、入れ替えも激しいですけど、頑張ります。体の方は全然大丈夫なんで」。

 日本シリーズでの“再戦”を、力強く誓った。

喜瀬雅則(きせ・まさのり)
1967年、神戸市生まれ。スポーツライター。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当として阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の各担当を歴任。産経夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。産経新聞社退社後の2017年8月からは、業務委託契約を結ぶ西日本新聞社を中心にプロ野球界の取材を続けている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)、「不登校からメジャーへ」(光文社新書)、「ホークス3軍はなぜ成功したのか」(光文社新書)、「稼ぐ!プロ野球」(PHPビジネス新書)、「オリックスはなぜ優勝できたのか 苦闘と変革の25年」(光文社新書)、「阪神タイガースはなんで優勝でけへんのや?」(光文社新書)

デイリー新潮編集部

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