「クマは猫のように近づいてきた」「太ももと首を噛まれ…」 登山中に人食いヒグマに襲われた壮絶体験 消防署員の告白

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クマスプレーがあったら

 亡くなった大学生が大千軒岳に入山したのが、10月29日のこと。20代男性が遭難した可能性があると北海道松前署が発表したのが、11月1日のことだった。10月31日の夜になり、北海道警は登山口に残された大学生の車を発見している。

「登山に際し、クマよけの鈴やホイッスルはそれぞれが持っていました。人がいるということをクマに知らせるため、要所要所で鳴らしていたんです。クマは臆病だとも言われていますし。さらに、火薬で音が鳴るピストルを2丁用意していました。こちらは私と後輩で持ち、時折発砲するようにしていました。クマの気配がないか、匂いが変わったりしていないか、気をつけながら登り、それを万全と言っていいかわかりませんが、我々なりの対策はしていたつもりでした。クマスプレーがあったら良かったかもしれませんね。急遽登ることが決まったので、個人的に持っていこうとはしていたんですけど、買いに行く時間がなかったんです」(船板さん)

 登山口を出発しておよそ2時間半後、急な登り坂の途中で“異変”が起きた。その“黒い物体”に最初に気づいた船板さんが続ける。

「私は2人からちょっとだけ遅れている状態でした。立ち止まって休憩しているところで、私は追いかける形で登っていた。その時はホイッスルも鳴らしていなかったと思います。そして、私がふと振り返ったときに、カーブのところから、クマが四つ足でのそのそ歩いているのが見えたんです。音もせず、私には猫が忍び寄ってくるように感じられました」

クマは怯むことなく近づいてきた

 しかし、そのクマは体長1.5メートルほどで、船坂さんが気づいたときにはわずか約5メートル先にいた。

「“クマだ!”と思わず声を上げました。あまり刺激しないように睨み合いながら徐々に後退りするも、クマは気にせず、距離を詰めてきました。目を合わせるのはよくないと知っていたので漠然とクマ全体を見るようにしていました」(船板さん)

 一方、登山道の先で立ち止まっていた大原さんによると、

「クマが近づいていることには全く気がつきませんでした。“クマだ!”という声が聞こえて、振り返ったら、クマが歩いていた。いつから尾けられていた のだろうという感じでした。声を出して威嚇しても、クマは怯むこともなく近づいてきました」

 思わぬ形でクマと遭遇した3人は「おい!」と大声をあげ、ピストルを3発放った。しかし、クマは全く意に介さない。登山道の脇は急斜面。逃げる場所もなかった。

 再び船板さんが言う。

「クマを発見して10秒ほどしたでしょうか。このままではまずいと思い、木の陰に逃げ込もうとしたその瞬間、クマの左手の爪で右太ももを引っかかれるように引きずり倒されたのです。倒されてから、私はかなり抵抗しました。噛まれないように両足を使って、足を突っ張り、クマの顎を蹴り上げました。それでも、右太ももを噛まれ、今度は首を噛まれました。その時は必死で、傷がどうなっているかとか、全く考えられませんでした。不思議なんですけど、死ぬかもしれないと思う余裕もなく、どうやって逃れようとしか。目の前にあるのは、牙と爪。致命傷にならないようにとにかくもがいていました」

 抵抗はなおも続いていた。

(後編 「爪が太ももに食い込んで」「一か八か喉元にナイフを」 唸り声を上げ襲いかかる人食いヒグマを撃退した消防署員の告白 に続く)

デイリー新潮編集部

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