あの「エマニエル夫人」も…年末年始にじっくり観たい「大人の映画」7選

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特集上映:FILM GRIS(シネマヴェーラ渋谷にて)

 FILM GRIS(フィルム・グリ=灰色映画)とは、終戦後のアメリカで、〈赤狩り〉の対象となった映画人が制作した、一連の犯罪映画のこと。なんと、それらを33本も集めて、年末年始に一挙上映するミニシアターがある。シネマヴェーラ渋谷だ。

「戦後、米ソ冷戦の時代となると、下院非米活動委員会が、共産主義者の監視・告発を開始しました。いわゆる〈赤狩り〉で、多くの芸術関係者が“反米左翼”のレッテルを貼られ、追放されました。このとき、司法取引をして仲間の共産主義者を明かし、追放を免れるものもいました。代表的なのは『エデンの東』『欲望という名の電車』で知られるエリア・カザン監督です。彼の告発で、作家ダシール・ハメットほか、多くの文化人が追放されました。後年、カザンがアカデミー賞名誉賞を受賞したとき、会場は、ブーイングと拍手が入り交じり、騒然となったものです」

 そんな時代に、資本主義や保守派に反旗を翻す映画人が、〈FILM GRIS〉を続々生んだ。

「ところが、これら〈FILM GRIS〉が、政治色を抜きにしても、実に面白いのです。たとえば、黒澤明『野良犬』の元ネタともいわれる『裸の町』(ジュールス・ダッシン監督/1948年)。モデル殺人事件を追う刑事の地道な捜査を描いていますが、全編がニューヨーク市内でゲリラ撮影されており、〈セミ・ドキュメンタリー〉映画の傑作と称されています。そのリアルさは、いま観てもゾクゾクする迫力で、特にラスト、マンハッタンのウィリアムズバーグ・ブリッジに犯人を追い詰めるシーンは、映画史にのこる名場面です。現在、アメリカ議会図書館の永久保存作品になっているのも納得の名作です」

 ちなみに監督のダッシンは、〈赤狩り〉によって追放されたあとは、ヨーロッパで復活することになる。ギリシャで、あの名作「日曜はダメよ」(1960年)を監督し、このときの主演女優、メリナ・メルクーリと結婚した。

「犯罪映画の傑作『拳銃魔』(ジョセフ・H・リュイス 監督/1950年)も見逃せません。拳銃に魅せられた男女が次々と犯罪を重ねていく、元祖『俺たちに明日はない』です。多くのシーンが町中の一発ロケ、同時録音で描かれており、いま観てもちょっと驚く画面の連続です。特に、田舎町の銀行を襲う3分30秒は、カメラが車のなかから一切出ないままワンカットで見せる、手に汗握るシーンです」

 この映画は、名脚本家ダルトン・トランボがシナリオを手がけた。だが、彼は当時〈赤狩り〉の対象でブラック・リストに載っていたので、名前を出せず、別人名義になっている。

「そのトランボを含む、〈赤狩り〉で証言を拒否した映画人10人を描く短編ドキュメント『ハリウッド・テン』(ジョン・ベリー監督/1950年)も上映されます。年末年始にこんな特集上映を組むミニシアターがあることも、ぜひ忘れないでほしいです」

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