あの「エマニエル夫人」も…年末年始にじっくり観たい「大人の映画」7選
「響け!情熱のムリダンガム」(ラージーブ・メーナン監督/2018年、インド)
「都電荒川線〈荒川遊園地前〉停留場そばにある、6坪の小さな南インド料理店〈なんどり〉のマダムが惚れこみ、クラウドファンディングの協力も得て個人で輸入配給したという、異色のインド映画です。2022年10月に公開され、いまでも日本のどこかで上映がつづいている、驚異的なロングヒット作品です」
「ムリダンガム」とは、南インドで使用される、民族楽器の太鼓のことだという。
「日本の太鼓や鼓のように両面ありますが、特徴的なのは、横に抱えて、左右面を同時に叩くことです。右手が高音、左手が低音を奏で、その組み合わせで驚くほど複雑なリズムを生み出します。この太鼓に魅せられた若者が、勝ち抜きオーディション合戦に挑戦する物語です。インド映画といえば、歌と踊りと恋愛とアクションが、すべて入っているのがお約束で、本作にも登場します。『ムトゥ踊るマハラジャ』や『RRR』が好きな方に、お薦めです」
しかし、それでは、いままでのインド映画と大差ないのでは? 南インド料理店のマダムは、どこに、それほど魅力を感じたというのか。
「たしかに、歌や踊りも出てきます。ところが、途中から、いままでのインド映画とはちがうことがわかります。実は本作は、インドの身分制度〈カースト〉がテーマなのです」
主人公ピーターの父は、むかしながらのムリダンガムづくりの職人である。あるときピーターは、人間国宝の太鼓奏者、アイヤル師匠の演奏を聴いて感動し、弟子入りを志願する。ところが、入門は許されない。なぜなら、太鼓づくり職人は、カーストにおける最下層で、演奏家とは身分がちがうというのだ。
「このあたりから、凡百のインド映画ではないことに気づくでしょう。物語は、ピーターがカーストの壁と戦いながら、いかにして師匠に入門し、オーディションを勝ち抜くかを、快速テンポで描いていきます。しかし物語は消して暗くなく、ひたすら明るく元気いっぱい、ユーモアたっぷりに展開します。本作が長く愛される理由は、そこにあると思います」
ところで、この映画、「日本のどこかで上映がつづいている」というが、そういわれても、銀座でも日比谷でも、上映されていないようだが……。
「公式HPに、いま、日本全国のどこで上映されているかが細かく出ています。特徴的なのは、映画館以外での自主上映会が各地で開催されていること。もしこの年末年始に近隣で上映がなくても、必ず、すぐに上映されます。我慢できなかったら、配給元の〈なんどり〉にご相談してはどうでしょうか。きっと自主上映会の開き方を、教えてくれますよ」
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