「今の信号行けただろ!」「サングラスはお客に失礼だ」理不尽なクレーム、独特の勤務形態…バス運転手が明かす“過酷すぎる日常”

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労働環境を過酷にする「中休」

 実はもう1つ、彼らの労働環境が過酷になっている原因として特筆しておくべきことがある。

 それは、「独特な勤務形態」だ。現場が「仕事がキツい」とする理由として、先のカスハラと同じくらい上がるのが「中休(ちゅうきゅう)」という勤務形態の存在である。

 多くのバス会社の場合、ドライバーの勤務形態は、主に「早番」「遅番」「通し」「中休」という4つの形態に分かれている。

 早番や遅番、通しは想像が付くだろうが、この「中休」は、バスや鉄道特有の勤務形態で、一般のバスドライバーや運転士のQOL(生活の質)を著しく低下させるとして悪評が高い。

 とりわけこの中休勤務が生じやすいのが、「街バス」だ。

 バスが1日のうちで最も必要になるのは通勤通学ラッシュ時と、帰宅ラッシュ時だ。

 当然、これらの時間帯にはドライバーが多く必要になるのだが、そのラッシュを過ぎた日中は、逆にドライバーがそれほど必要なくなる。

 そのため、例えば始発の朝5時から9時に運転業務をしたあと、6時間の「中休み」を取り、15時から19時まで帰宅ラッシュ時に再度運行に入る、という勤務形態ができあがる。

 この「中休み」が「中休」の正体だ。

 中休は「休憩時間」になるので、いったん帰宅してもいいことにはなっている。しかし、自宅から営業所までの往復時間を考えると全く合理的ではなく、そのあともまたすぐに仕事に戻ることを考えると、精神的にも落ち着かない。

 何をするにも「時間が短すぎ、そして長すぎる」のである。

 そのため、多くのバスドライバーが中休ですることといえば、普段足りていない睡眠の補充くらいだ。

 朝のラッシュ時間帯の勤務はトイレに行く時間もなく走り続けるドライバー。なかには、その中休の間、営業所に帰る時間すら惜しいと、バスの回転場に停めたバスの後部座席の長椅子で仮眠を取るドライバーもいる。

 この中休で最も問題なのは、この「仮眠を取る」ことくらいしかできない中途半端な中休が、多くの現場で「拘束時間」に含まれないことにある。その結果、中休以外の休みや休日が短くなったり、長時間拘束の原因になったりする。これにより、バスドライバーのQOL全体が低下するのだ。

 そんな激務にもかかわらず、彼らの給料は驚くほど安い。

 バスの運賃改定は国の認可制になっているうえ、公共交通機関であるという理由から、なかなか運賃は上げられないのだ。生活弱者も多く利用するバスは、10円運賃が上がるだけで乗客に大きな影響が及ぶ。

 そのため彼らの給料は上がらず、結果的に人手不足の要因になってしまっているのだ。

「給料、安いですね。人の命を預かり、大きなリスクを引き受けて走っているプロドライバーであるにもかかわらず、あまりにも待遇が悪い。ひどい時には、もろもろ控除されて手取りが10万円台の時もある」

休みが抽選

 年末年始、毎度多くのバス会社 では世間の知らないところで行われていることがある。
「抽選」だ。

「年末年始は普通に仕事です。公休以外の休みは抽選で決めます。公共交通機関なうえ、初詣や旅行客が増えるので、完全に運休にするわけにはいかない。正月返上で走っているドライバーの存在を、少しでも分かってもらえれば幸いです」

 大型連休になると、道路にも車内にも普段クルマに乗り慣れていない人が集結する。
お互いの事情を汲み、心と時間に余裕を持ち、どうか気持ちのいい新年を迎えてほしい。

橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、人権、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆・講演、メディア研究などを行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路~現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)。

デイリー新潮編集部

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