泣く子も笑う「タケモトピアノ」CMでも人気の「財津一郎さん」、“老々介護”で愛妻に尽くした晩年【2023年墓碑銘】

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 長く厳しい“コロナ禍”が明け、街がかつてのにぎわいを取り戻した2023年。侍ジャパンのWBC制覇に胸を高鳴らせつつ、世界が新たな“戦争の時代”に突入したことを実感せざるを得ない一年だった。そんな今年も、数多くの著名人がこの世を去っている。「週刊新潮」の長寿連載「墓碑銘」では、旅立った方々が歩んだ人生の悲喜こもごもを余すことなく描いてきた。その波乱に満ちた歩みを振り返ることで、故人をしのびたい。
(「週刊新潮」2023年11月2日号掲載の内容です)

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 財津一郎さんといえば、「ピアノ売ってチョーダイ」と歌う「タケモトピアノ」のCMがまず思い浮かぶかもしれない。20年以上にわたり放送され続け、見た赤ちゃんが泣きやむと話題にもなった人気CMだ。

 演芸評論家の相羽秋夫さんは振り返る。

「一度見たら忘れません。そして何度見ても面白い。歌いながら動きも軽やかで、真面目に演じているのに笑えます。短いCMの中で芝居が完成されていますが、多才な財津さんのほんの一面に過ぎません」

 見て聴いて終わりではない。心まで熱気を伝えたいと考え、実践していた。

 1934年、熊本生まれ。本名は財津永栄(ながひで)。名家で父親は農林省の役人だった。済々黌高校時代に演劇に目覚める。快いバリトンの声が持ち味で帝劇ミュージカルの研究生に。53年、森繁久彌主演の「赤い絨毯」で初舞台を踏む。だが、帝劇ミュージカルは解散。米軍キャンプ回りのジャズ歌手や劇団などを経て、64年、吉本新喜劇に参加する。

 財津さんに注目したのが、時代劇風コメディー番組「てなもんや三度笠」を演出していた澤田隆治さんだ。同番組は渡世人役の藤田まことと相棒の白木みのるにより絶大な人気を誇った。

喜劇もシリアスな演技もできる

 浪人役、蛇口一角(へびぐちいっかく)として66年に抜てきされ、この好機を逃さなかった。手を頭の後ろから回して反対側の耳をつかんだり、刀の刃をなめたりする仕草を、役名にちなんで蛇の動きから編み出した。一方、「ヒッジョーニ、キビシーッ」や「~してチョーダイ」など、後に決めゼリフとなったギャグは口を衝(つ)いて出たという。本当に“生活が非常に厳しく、助けてちょうだい”と思っていたのだ。

 69年、人気絶頂の身にしてもっと修業したいと吉本を去り、再び東京へ。映画、テレビ、舞台で大活躍する。

 映画評論家の白井佳夫さんは言う。

「喜劇もシリアスな演技もできる。不気味さも誠実さも演じられ、多くの監督の期待に応えた。私がパーティーで手持ち無沙汰にしていた時、声をかけてくれたことがある。社交辞令を言うのではなく、心が温かかった。繊細で、役の人生を生きるひたむきさがありました」

「祝辞」(栗山富夫監督)では上司の息子の結婚式でスピーチを頼まれたサラリーマン役を演じ、共感を呼んだ。この手の名演は数多い。

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