川井友香子 パリ五輪への道が絶たれ“至学館大がゼロ” 「いつが最後になるか分からない」姉・金城梨紗子との強い絆も

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「海外に出たい」と宣言

 金城が危なかったのは徳原姫花(22=自衛隊体育学校)との準決勝だった。4対6とリードされて残り約10秒、絶体絶命となっていた金城が柔道の技のように足をかけて体を浴びせると、徳原の体はどーっと背中から落ちた。金城はすかさずニアフォールまで持ち込んだところでタイムアップ。土壇場で8対6として逆転勝利した。

 千両役者が場内を沸かせた準決勝について筆者が「まだあんな勝負勘が残っているという思いは?」と聞くと、「うーん、勝負勘というより……。日大での男の子との練習でボロボロでも咄嗟に(技を)出すことをやっていて、それで自然に出ました」と振り返った。

 金城はこの日「もう一度海外に出たい。(川井ではなく)金城の釣りパン(シングレット=試合着のこと)でも優勝したい」と話した。世間はオリンピックにばかり注目するが、世界選手権だって男女問わずレスラー憧れの舞台だ。五輪2連覇を経て母になった金城は、国際大会の舞台に立つという目標に向かって戦い続ける。

階級を上げて挑んだ川井

 一方、妹の川井は、前日に行われた五輪階級の68キロ級の1回戦で大激戦の末に吉川海優(25=自衛隊体育学校)に敗れ、パリ五輪プレーオフへの道が閉ざされていた。試合後の会見では涙ながらに「もともとなくなっていたはずのチャンスが巡ってきていた。自分で褒めてしまうようですけど、ここまでよくやったと思う」などと話した。

 女子で唯一パリ五輪の代表が決まっていなかった68キロ級は、石井亜海(21=育英大)とのプレーオフの対戦相手を決める場となっていた。川井は階級を東京五輪の62キロ級から68キロ級に上げて臨んだが、層は厚かった。

 会見の最後で筆者が「(五輪連覇の)お姉さんには勝てなかったという思いは?」と聞くと、「私は姉と比べるようなことはしていないんですよ。比べていないので」と、ちょっと怒ったような表情を見せた。非常にシャイで以前は話すことは「姉任せ」にしていたような川井だが、しっかりと報道陣に語り続ける姿から、栄光もどん底も経験したこの数年で彼女が人間的にも大きく成長したことを感じた。

 本当に仲の良い姉妹だ。姉の試合では「梨紗子、そこ来るよ。気を付けて」などと妹がマットサイドから声を枯らす。前日は逆に「友香子、構えを立て直してしっかり」と姉が声援し続けた。「強い絆」のことを問うと、金城は「いつが最後になるかわからないという思いですので……。私はですよ。友香子は知らないけど」と話した。

 五輪に出ようが出まいが、励まし合ってプレッシャーや辛さを乗り越えてきた姉妹の深い絆は変わらない。いつまでもこの日のような2人の姿を見ていたい。

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