買春王国・日本の病理に迫る「東京貧困女子。」、男性の貧困をコミカルに描く「仮想儀礼」… メッセージ強めのおすすめドラマ3選

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 若い人はこの国に生まれて、舌打ちしていないだろうか。親の経済格差で教育の機会は不平等。奨学金は低金利とはいえ、実質は長期過酷ローンで夢も希望も機会も阻む。「寄らば大樹の陰」「大船に乗った気持ち」の時代はとっくに終わったし、大樹の根っこは大概が腐敗、うっかり乗った大船も実は沈みゆく泥舟。ごく一部の恵まれた人だけが豊かに暮らす悪政の下、何をするにも頭打ちで、舌打ち100万回ではないだろうか。

 ドラマ界は現実逃避のファンタジー傾向に舵を切り、民の貧困や疲弊を直視していないようにも見えるが、厳しい現実を描く作品も密かに誕生している。師走に出そろった感じもあるので、まとめてご紹介しておこう。

 まずは、苦学生の闘いを描く「SHUT UP」。主演は民放連ドラ初主演の仁村紗和。奨学金で大学に入ったものの、バイト掛け持ちでギリギリの生活。女子寮の苦学生仲間(莉子・片山友希・渡邉美穂)と共に暮らす。彼女たちは本屋や弁当屋、居酒屋でバイトし、疲れ切った体で大学へ通い、遊ぶ余裕はほぼない。生理用品すら買えず、キッチンペーパーでしのぐ月もある。

 サークルの勝ち組男性(一ノ瀬颯)に妊娠させられた仲間の中絶手術費用を工面すべく、パパ活で荒稼ぎをもくろむも、待ち受けていたのは格差社会の現実と汚れた大人の欲望。彼女たちがじゅうりんされた人権と自由を奪い返すために闘う物語だ。

 女性が貧困から抜け出すためには男の欲望を利用するしかないのか、という問いに真摯に答えるドラマがもう1作。「東京貧困女子。─貧困なんて他人事だと思ってた─」だ。主役の摩子を演じるのは朝ドラで大活躍の趣里。シングルマザーの契約編集者で、「女性の貧困」がテーマの連載を担当することに。取材・執筆するのは風俗ライターの崎田(三浦貴大)。パパ活や風俗で生活費を稼ぐ女性の話を聞き、摩子は現状を知ると同時に、自分も貧困の境界線にいることを自覚する。風俗で働く女性たちの切実を通り越した虚無を、東風万智子や宮澤エマらが体現。買春王国・日本の病理の深さが露呈する内容でもある。

 女性の貧困が生々しく世知辛く描かれる一方、男性の貧困はどうか。令和の負の象徴「カルト宗教」とつなげ、コミカル&シニカルに描くのが「仮想儀礼」だ。東京都庁職員でエリート街道を歩んでいた鈴木(青柳翔)は、偶然出会った矢口(適役すぎる大東駿介)と意気投合。妻(入山法子)に内緒で作家を目指すことに。詐欺師ではないが、褒め上手な矢口におだてられ、夢を追って退職&仕事場を購入。しかし矢口は音信不通に。妻とは離婚、作家になる才能も術もなく、困窮状態へ陥る。

 矢口は中卒だが腕一本でゲーム会社に就職、しかし女性問題で解雇され、ホームレスに。炊き出しで再会した矢口は懲りずに懐いてきて、ふたりでインチキ教団を始めるという物語だ。

 毛色の異なる3作だが、貧困の現実と苦悩、社会への呪詛、弱みにつけこむビジネスへの揶揄などメッセージ性は強め。制作陣の静かなる憤慨が伝わってくる。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年12月28日号掲載

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