【米国経済】インフレ鎮静化で楽観ムード漂うものの、早くもデフレ懸念への警戒感 FRBはやり過ぎたか

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既に「高齢社会」入りしている米国

 米国のインフレを弱めている最後の要因は高齢化だ。

 2020年の高齢化率(全人口に占める65歳以上の人口の割合)は16.8%となり、米国は既に「高齢社会」入りしている。戦後15年余り続いたベビーブーム世代の多くが高齢者となり、2010年に比べて高齢化率は4%も上昇した。

 米国では日本と同様、高齢者が保有する資産の割合は大きく(12月20日付ブルームバーグ)、「シルバー消費が今後の消費動向の鍵を握る」と言われ始めている。

「米国の高齢者は日本の高齢者よりアクティブだ」とされているものの、耐久財など物への支出が減るのは万国共通の現象だ。

 このため、「1990年代の日本のように、米国も高齢化の進展により経済がディスインフレ(物価上昇のペースが鈍化する)状態になる可能性がある」と見方が生じている(12月11日付Business Insider Japan)。

消費減速による「悪い物価低下」

 米国のインフレを低下させる要因は目白押しだが、気になるのはデフレ懸念だ。

 小売りの現場からは「家計の逼迫で顧客が支出に一段と慎重になっており、来年の消費行動の予測は難しくなっている」との声が高まっている(12月6日付ロイター)。

 消費の減速傾向を示すように、一部の商品で既に価格低下が起きている。前述のPCEでは、10月から自動車や家具、家庭向けの耐久消費財の価格が前年比でマイナスとなるデフレが起きている。

 消費減速による「悪い物価低下」の兆しが出ており、「FRBはやり過ぎた。米国ではあらゆる産業でデフレが進行しており、今後、この傾向はさらに強まるだろう」と警戒する声も上がっている(12月15日付ブルームバーグ)。

 米ロサンゼルスで3番目の高さを誇るオフィスタワーが、2014年の取引時に比べ45%も下回る価格で売却(12月23日付ブルームバーグ)されたように、資産デフレも進んでいる。

 インフレの鈍化で沸き立つ米国の金融市場だが、実質金利が高まる経済のデフレ化が顕在化すれば、センチメントは一気に悪化してしまうのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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