【米国経済】インフレ鎮静化で楽観ムード漂うものの、早くもデフレ懸念への警戒感 FRBはやり過ぎたか

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米国のインフレ鎮静化、複数の要因

 米商務省が12月22日に発表した11月の個人消費支出物価指数(PCE)は前年比2.6%上昇したが、伸び率は10月の2.9%を下回った。伸びが3%を下回るのは2ヵ月連続だ。前月比でも0.1%低下した。

 米労働省が12日に発表した同月の消費者物価指数(CPI)も前年比3.1%上昇にとどまり、前月に比べて伸びが鈍化している。

 インフレが沈静化しつつあることから、市場では「米連邦準備理事会(FRB)が来年3月から利下げを開始する」との見方が広がり、米長期金利(10年物国債利回り)も低下している。

「景気悪化の材料が一掃された」として、株式市場は再び活況を呈し始め、「米国経済はリセッション(景気後退)入りすることはない」とする楽観派の声が大きくなっている。

 たしかに米国のインフレはこのところ収まってきている。FRBの積極的な利上げが功を奏した形だが、それ以外にもいくつか要因がある。

 最初に挙げられるのは、米国の労働市場の過熱が収束したことだ。

 米労働省が5日に発表した10月の非農業部門の求人件数(季節調整済み、速報値)は前月比61.7万件減の873.3万件だった。2021年3月以来の低水準となり、賃金インフレの圧力が弱まったことが明らかになっている。

中国からの「デフレ輸出」

 次に挙げられる要因は、輸入物価の低下がさらなるインフレの鈍化に寄与する可能性が高まっていることだ。

 米労働省が14日に発表した11月の輸入物価指数は前月比0.4%低下した。低下は2ヵ月連続で、エネルギー製品や自動車の価格低下が主な要因だ。11月の燃料価格は前月比5.6%、自動車・部品・エンジン価格は0.1%低下した。

 注目すべきは、中国からの輸入物価指数が0.1%低下したことだ。前年比では2.9%低下している。

 中国税関総署が7日に発表した11月のドル建ての輸出額(速報値)は前月比0.5%増と7ヵ月ぶりにプラスに転じたが、単価を計算できる17品目のうち、前年比で単価が低下した品目は71%を占めた。その比率は昨年秋から上がり始め、今年5月以降は7~8割で高止まりしている。特に、鋼材や自動車の単価低下が顕著だ(12月13日付日本経済新聞)。

 中国の生産者物価指数(PPI)は1年以上にわたってマイナスが続いており、過剰在庫を抱える中国企業の間では海外で安く売る動きが広がっている。

 中国の粗鋼生産の世界シェアは5割、自動車は3割強を占めている。「世界の工場」である中国からの「デフレ輸出」は、米国を始め主要国のインフレ圧力を和らげる効果を発揮し始めている。

「中国経済の不況が続く期間が長くなればなるほど、西側諸国の今後のインフレ率は下がるメリットがある」と評価する声がある一方、中国からの安値での輸出攻勢は、新たな貿易摩擦の火種になりかねない。

 既に欧州連合(EU)は「中国製の電気自動車(EV)が政府からの補助金によって安価で販売されていないかどうか」の調査を開始している。

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