“ブルジョアジー諸君!”と絶叫、「頭脳警察」PANTAさんが「左翼以外にも人気」だった理由【2023年墓碑銘】
長く厳しい“コロナ禍”が明け、街がかつてのにぎわいを取り戻した2023年。侍ジャパンのWBC制覇に胸を高鳴らせつつ、世界が新たな“戦争の時代”に突入したことを実感せざるを得ない一年だった。そんな今年も、数多くの著名人がこの世を去っている。「週刊新潮」の長寿連載「墓碑銘」では、旅立った方々が歩んだ人生の悲喜こもごもを余すことなく描いてきた。その波乱に満ちた歩みを振り返ることで、故人をしのびたい。
(「週刊新潮」2023年7月20日号掲載の内容です)
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曲を聴いたことがなくても、ロックバンド「頭脳警察」の名には覚えがあるだろう。まだ学生運動に勢いがあった1970年代初頭、若者を中心に熱狂的な支持を集めた。そのボーカルが、PANTAさん(パンタ、本名・中村治雄)だ。
頭脳警察は半世紀以上を経た今も反体制ロックバンドの筆頭格と称されるが、PANTAさんは決して過激な政治思想の持ち主でも学生運動の闘士でもない。
赤軍派の著した文章を読み、左翼の暴力思想というよりあだ討ちの心情だと感じたPANTAさんは、ライブで一部を朗読しようと考えた。いざステージに上がると高揚し、「ブルジョアジー諸君 われわれは世界中で君たちを革命戦争の場にたたき込んで」と絶叫。これが代表曲「世界革命戦争宣言」だ。
PANTAさんと長年にわたり交友があった音楽評論家の増渕英紀さんは言う。
「世の中これでいいのかな、との思いはあっても、音楽で社会を変えようとか、反体制派を扇動しようとかまでは考えていません。『世界革命戦争宣言』にしても、イデオロギーに共感を覚えたのではなく、情念を感じて引かれたというのです」
学生運動の側からは理解者、反体制のヒーローとして祭り上げられていく。
詩そのもの
50年、埼玉県所沢市生まれ。父親は米軍基地に勤務。母親はかつて日本軍の従軍看護婦だった。関東学院大学に進み、ホリプロのオーディションに合格。グループサウンズのアイドルにされることを望まず、すぐに離れた。69年、TOSHI(トシ)こと石塚俊明さんらと「頭脳警察」を結成。
縁の深かった、音楽評論家で尚美学園大学副学長の富澤一誠さんは振り返る。
「頭脳警察は、欧米のまねではなく日本語でロックを歌った先駆者でもあります。だからこそ歌詞を大切にした。詩そのものでしたね。心に響く力を持っていた」
70年、人気ミュージシャンが集う日劇ウエスタンカーニバルに出演。PANTAさんはステージ上で自慰行為に及び大騒動に。楽屋での冗談が、萩原健一に「本当にやるの?」と聞かれて引けなくなったという。
何をしでかすかわからないと恐れられ、「世界革命戦争宣言」のヒットで反体制派のレッテルを貼られる。
「売れようと狙ったのではなく好きにやっているだけと意に介さず、左翼以外にも人気でした」(富澤さん)
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