【パー券裏金問題】東京地検特捜部は朝日とNHKを使って世論形成を図ろうとしているのか 「検察リーク説」をベテラン司法記者に聞いた
検察リークを批判した西部邁
こうした指摘や報道に、これまで検察側は強く反発してきた。東京地検の検事正を務めた高橋武生氏、特捜部部長を歴任した五十嵐紀男氏や熊崎勝彦氏が、新聞各紙の取材に応じて「検察リーク説」を真っ向から否定している。
1998年に起きた大蔵省接待汚職事件でも「検察リーク批判」が世論を賑わせた。そのため、当時、東京地検の次席検事を務めていた松尾邦弘氏が緊急の会見を開き、「いわれなき批判」と反論したうえで、リーク説が出るのは報道機関にも責任があるとして、取材を制限すると発表。これに司法記者クラブは反発し、撤回を求めたという騒動も起きた。
幹部がどれだけ否定しても、検察によるリークを批判する関係者や識者は少なくなかった。内務省の官僚から警視総監を経て政界に転進、法務大臣を務めた秦野章氏は、1992年、朝日新聞の取材に、検察リークは「そりゃあるよ」と肯定。「新聞にリークして世の中を動かそうという権力のワル、それが検察だよ」と断言した(註2)。
評論家の西部邁氏も1998年に産経新聞に寄稿し、大蔵省接待事件で道路公団の関係者が逮捕されたことを《二年間で二百五十万円程度のこんなささやかな民官接待》と強く批判。以下のように検察リークを問題視した。
《三カ月ほど前から、「特捜が大蔵省に手を入れるそうだ」と情報がマスコミの全域に、しかも一斉に、出回った。これをみて「特捜のリーク」を感じとらないものは、検察という国家権力に魂を吸いとられたもの、つまり(今風の言い方をつかえば)自立せざる市民だけであろう》
検察リーク説への疑問
ベテランの司法記者に取材を依頼すると、「そもそもリークという言葉の定義すら曖昧です」と言う。ちなみに「広辞苑」(岩波書店)でリークを調べると、《1漏電 2秘密や情報などを意図的に漏らすこと》とある。
「私はリークを『独裁制など問題のある国家が、自分たちの利益のために流す歪んだ情報』と定義すべきだと考えています。情報統制の一環であり、中国やロシアでは今も行われています。日本でも太平洋戦争中には大本営発表がありました。また、戦後はGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が日本のメディアを統制、自分たちに都合の悪い記事を配信することは禁止し、自分たちに都合のいい情報はリークして記事に書かせました」
この定義に従えば、日本の主要メディアが特捜部の捜査情報をキャッチしようと全力を注ぎ、スクープとして報じることは“リーク”ではないことになる。報道内容はあくまでも“事実”だからだ。
「今、検察がどんな捜査を行っているかという記事は公益に叶いますし、何よりも国民が求めている情報です。『安倍派や二階派が派閥のパーティーを悪用し、裏金を作った』というとんでもないことが行われていたわけで、これは今すぐに報道しなければならないことは言うまでもありません」(同・ベテラン記者)
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