コロナ後の街づくりには何が求められているか――大松 敦(日建設計社長)【佐藤優の頂上対決】
駅周辺一体開発
佐藤 日建設計は、東京スカイツリーや東京ミッドタウン、ひと昔前だと東京ドームや中野サンプラザといったランドマークを数多く手掛けてこられましたが、近年は駅周辺の一体開発を数多く手掛けられている。
大松 そうですね。さいたま新都心の開発は、バブル崩壊の1990年代前半に本格化しますが、まだあの頃は仕事がたくさんあったんです。でもそれから約10年後の2000年までを見てみると、依頼主の会社が倒産したり、事業を続けられなくなったりして、止まってしまった計画がたくさんあるんですね。残った仕事は何かといえば、ほとんどが駅周辺のプロジェクトだったんです。
佐藤 公共性がありますから、簡単にはやめられない。
大松 ええ、だから駅の持つポテンシャルはすごいんですよ。その事業をもっと深めていこうと考えていた時、都市再生特別措置法が制定されました。2002年のことです。
佐藤 どんな内容の法律なのですか。
大松 情報化や国際化など変わりつつある社会に合わせて民間からの提案を生かして都市をつくり替えていこうというもので、これによって都市の再開発が加速しました。
佐藤 そうすると、その分野の事業全体に占める割合がかなり増えた。
大松 都市再開発分野のボリュームは増え続けてはいますが、狭く限定すれば、まだ年間売り上げの4分の1くらいですね。
佐藤 それほど高くない。
大松 都市プロジェクトの延長線上の建築物の設計も入れるなら、半分近くにはなります。
佐藤 私は京都にある母校の同志社大学で教壇に立っているので、東京駅をよく利用します。八重洲口も日建設計の仕事ですね。
大松 八重洲口は、駅前の百貨店大丸が入っていた鉄道会館ビルを取り壊し、230メートルの大屋根、グランルーフを造って、その両端にグラントウキョウノースタワーとグラントウキョウサウスタワーを配置しました。
佐藤 大丸はノースタワーに移りましたが、すごく恩恵にあずかっていると思いますよ。上層階のレストランは、予約していかないとなかなか入れない。
大松 やはり場所がいいですからね。
佐藤 駅前の鉄道会館ビルがなくなって広場が生まれ、非常に開放的な空間になりました。
大松 人流を変えるとともに、風の道をつくりたいという発想もあったんです。以前は鉄道会館ビルが東京湾から来る風を止めていたんですよ。それを外すことによって、丸の内、皇居への風の道をつくった。これにより丸の内側のヒートアイランド現象が緩和されてきました。
佐藤 まさに風通しがよくなった。
大松 八重洲口のプロジェクトは10年ほど前に完成しましたが、最近また少し手を加えました。グランルーフ下のペデストリアンデッキや階段にベンチを置くなど、そこに人が滞留できるようにしたんです。いまは3Dセンサーを使って人の動きを捕捉できますから、利用者がどんな動きをしているか、どこに集まるかなどを見極めて、より快適に過ごせるようリニューアルしました。
佐藤 時代によって人の動きや嗜好は変わってきますからね。
大松 ええ、だから一度つくってしまったらおしまいではなくて、その後、長期間にわたって、そこをよくしていけるかが大切です。事業主や社会から、それが問われる時代になってきたと思います。
佐藤 先日、山手線を止めての大工事が行われた渋谷駅周辺の一体開発にも日建設計が関わっていますね。
大松 渋谷駅周辺の再開発には、もう20年以上携わっています。渋谷駅は4社9路線の鉄道と都内最大級のバスターミナルがある上に、大正時代から繰り返し行われた増改築によって、乗り換え動線が複雑化していました。また駅周辺の歩行空間や広場が少なく、道路は混雑し、施設も老朽化していました。
佐藤 駅からは人が溢れて、ものすごく混雑している。いつ事故が起きてもおかしくない。
大松 そこで東急、JR東日本、東京メトロが東京都、渋谷区とともに、鉄道、道路、建築物を一体化させて、街づくりを進めることになったのです。弊社はマスタープランづくりから始めて渋谷ヒカリエや渋谷スクランブルスクエアの設計を担当し、今年11月に竣工した渋谷サクラステージの施設計画にも参加しています。
佐藤 南口がある方ですね。
大松 ええ、国道246号線を越えたところにJRの改札口を新設します。
佐藤 246の向こう側に行く人の流れができる。
大松 そうですね。人の流れは大きく変わると思います。
佐藤 渋谷駅周辺の再開発は、いつごろ完了するのですか。
大松 西口の駅前はもう少し時間がかかりますし、駅の上にビルを建設する計画もあります。そこは鉄道を動かしながらの工事なのでどうしても時間が必要です。ですからいまの段階では、何年に終わる、とはまだ申し上げられないですね。
佐藤 これまでの二十数年間、ずっと渋谷を担当されている方もいらっしゃるのですか。
大松 いますね。都市部門の部門長は、二十数年前に私と一緒に渋谷のプロジェクトを始めて、いまも関わっています。もちろん、立場が変わっていますので、毎週の定例会議に出ることはないでしょうが(笑)。
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