大学生の息子が「20歳年上のシングルマザー」と結婚宣言…父親として「取り返しのつかないことをした」と嘆く50歳男性の末路
30代半ばで起きた“事件”
平和な家庭は続いていたが、彼が30代半ばのころ、母親が失踪するという事件が起こったことがある。なんと母が不倫をしていたのだ。仲がいいと信じていた両親に、そんなできごとがあったのが信じられなかった。
「あのとき初めて、人生、案外厳しいかもしれないと思いました。同時期、勤めていた会社が吸収合併という憂き目にあって、僕、失職してしまったんです。家庭も仕事も、絶対的なものなんてないんだというのは、よくわかっていたつもりです」
彼は先輩の紹介で転職し、母は父に請われて家に戻った。父がどうして母を許したのか、彼はのちに父に尋ねたことがある。
「父は『40年以上、一緒に生活してきたんだ。今さら壊してなるものか』と言いました。母が不倫した原因はよくわからないんですが、相手は初恋の人だったらしい。年いって、初恋の人に再会したら気持ちが舞い上がったのかなあ。人生の先が見えている年齢だったからこそ、最後の賭けみたいな気持ちだったのか、あるいは単純に突っ走ってしまったのか……。それ以後も、両親は何ごともなかったかのように暮らしていましたよ。母が特に遠慮しているふうでもなかった。ふたりの心中はわかりませんけどね。父も母もこの数年で亡くなりました。なんだかんだあっても、最後はみんないなくなっていく」
そう、最後は誰もがいなくなっていくだけ。それが人生なのだとわかっていながら、人はあがく。生まれたときから死に向かっているだけなのに、そのときどきの感情に翻弄されたり喜怒哀楽に身をやつしたりするのは、ただ生きているだけでは物足りないという人間の性なのか。
「僕は周りを見ながら、それほど喜怒哀楽を求めるわけではなく、感情を乱されるようなこともなく生きてきましたが、母の不倫と失業だけはちょっと心乱れましたね」
3人と1匹に
妻の佳葉子さんは、卓哉さんよりずっとアクティブな女性だという。仕事をしながらの子育ても楽しそうだったし、どんなに忙しくても文句を言うことはなかった。文句を言うより先に、「卓哉、今晩は風呂掃除、任せたからね、よろしくね。私、もうダメだから早寝するから」と言って寝てしまう。ひとりでがんばればいい、私が我慢すればいいというタイプではなかったから、一緒に生活していて楽だった。
「息子の教育に関しても、諍いが起こるようなことはありませんでした。本人がしたいようにすればいいという点で一致していたから。全然教育熱心な親ではなかったから、息子本人が『ねえ、うちはどうして勉強しなさいって言わないの?』と言ったことがあって、夫婦で爆笑しました」
もうひとりほしかったとふたりとも思っていて、それだけがわだかまっていたが、あるとき息子がずぶ濡れになりながら子犬を抱いて帰ってきた。
「雨の中、捨てられてたんだ。死んじゃうよと中学に入ったばかりの息子が泣いていたんです。家族で犬を温め、ときどき温かいミルクを飲ませながら朝までみんなで見守って病院につれていった。犬は少し弱ってはいたけど大丈夫だったので、うちで飼うことにしました」
小さな命を3人で見守ったことで、家族の一体感が強まったような気がすると卓哉さんは懐かしそうに言った。大事に育てられた犬は今も元気だという。
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