【袴田事件】裁判長は「異臭がするので臭いに弱い方はご退席ください」 記者が再審法廷で目撃した異様な光景とは
ついに登場した「5点の衣類」
休憩を挟み、午後3時20分から再開した。いよいよ5点の衣類の登場だ。
裁判長が「異臭がするので臭いに弱い方はご退席ください」と言った時である。筆者の後ろの席の男性が「毒じゃないんですよね?」と言った。その途端、裁判長は「次に声を出したら退廷を命じます」と厳しい口調で注意した。それだけではない。「席の番号は?」と問い、職員に席番号を告げさせた。男性がしつこく発言したなら別だが、裁判長が「毒などありません。発言はしないでください」と言えば済む話である。いきなり権威を見せつけるように傍聴席を睨み「退廷させます」と大きな声を出す神経質さは異様だった。
白山弁護士が「5点の衣類がなければ有罪判決はなかった」と題して、いよいよ5点の衣類が登場した。半袖シャツ、スポーツシャツ、ブリーフはなくステテコとズボンの2点、さらに、入っていた麻袋と色を示す札である。男女の職員2人がビニール袋から慎重に取り出し長机に広げた。当時、巖さんが履いていた茶格子模様のズボンも展示された。ステテコとズボンは経年変化もあって全体が濃い茶色に染まり、傍聴席から筆者が見てもどこが血痕なのかもわからなかった。臭いについては、比較的、衣類の近くにいた筆者も全く感じなかったが、法廷の扉が開け放たれていた。
白山弁護士は「持って広げてください」と求めたが、職員は「破れる」「破損する」と拒否した。麻袋に至っては段ボール箱から出すこともせず、少し見えるようにして撮影させただけだ。これではよくわからないだろうと思ったのか、白山弁護士が「裁判長さん、どうぞ近くで見てください」と求めたが、國井裁判長は立ち上がっただけで左陪席の益子元暢裁判官を見に行かせただけだった。
審理は午後4時20分頃に終了したが、マスコミを先に退出させて一般の傍聴者は待たせる。そんなことも普通はしない。3人の裁判官は最後の傍聴者が出るまで退廷しないで様子を見守っている。弁護団の水野智幸 弁護士(法政大学教授)は「裁判長が廷内の様子を最初から最後まで見届けるということでしょう」と話していた。どこまでも警備だ。開廷が午前11時と遅いのも、荷物検査や身体検査などで時間がかかるからだそうだ。
巖さんやひで子さんの人柄、支援者の善意もあり、これまで袴田事件の取材でピリピリした雰囲気を感じたことはない。だが、事件を裁く裁判所には何か別の力が働いていると感じた。「袴田巖さんを救援する清水・静岡市民の会」(楳田民夫代表)の山崎俊樹事務局長は「後日、國井裁判長が担当する別の事件を傍聴しましたが、國井氏は最初から居て最後の傍聴人の私が出るまで見守っていた」と明かした。廷内に関しては「袴田事件ゆえ」ではないのか。
「捏造」をベースに考える
弁護団の会見で団長の西嶋勝彦弁護士は「検察はこまごまとした主張を繰り返していた。5点の衣類が(事件直後の)捜索で見つからなかった理由などを説明していた。次回以降、こちらは取り調べの不当性を主張していく」と話した。3月に結審せず、ずれ込みそうだとも明かした。
ひで子さんは「今日は裁判らしい裁判でございました。小川先生はじめ弁護士さんの反論は素晴らしかった」と語り、「検察はわけのわからんことをごちゃごちゃ言っていたけど、弁護団はすべからくバババっと返していた。検察が何を言おうと私はびくともしない。この調子でやってほしい」と弁護団にエールを送った。5点の衣類については「報道で見たことはあるけど、実物を初めて見た。けど、よくはわからなかった。ステテコやズボンであることはわかるけど……古いものですから」と話した。
小川弁護士は「捏造」の言葉を繰り返していた理由を記者に問われると、「捏造だから、はっきりと裁判官にも皆さんにも認識してほしい。捏造を頭に置けば事件がよくわかることを裁判官に知ってほしい」と答えた。
角替清美弁護士は「証拠物は博物館の宝物ではない。(地裁職員の扱い方が)神経質で物足りなさを感じた」と語った。
「裁判長はどうして(5点の衣類を近くで)見に降りてこないんですか」という質問も出た。笹森学弁護士は「今の段階でよく見てもあまり意味はないんですよ」などと答えた。経年劣化で色は変化しているのであまり意味がないかもしれないが、サイズを見ることは重要だろう。
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