【袴田事件】裁判長は「異臭がするので臭いに弱い方はご退席ください」 記者が再審法廷で目撃した異様な光景とは

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最初から法廷にいた裁判官

 入室して違和感を覚えた。ひで子さんと弁護団、検察官、さらに、國井恒志裁判長ら3人の裁判官がすでに着席していた。通常、裁判官は最後に入室し、傍聴者も「起立、礼」をさせられるがそれもない。報道機関による廷内の代表撮影も傍聴人が入った後に行うが、すでに終わっていた。そんな中、審理が始まった。

 巖さんの補佐人であるひで子さんは、弁護団席の最前列で事務局長の小川秀世弁護士の隣に座っていた。検察官3人は若く、1人が女性だ。

 午前中は検察側の「有罪立証」の続きだった。検察は事件があったこがね味噌の当時の従業員の証言記録から、巖さんは「味噌出し」という役割で、大豆を潰したり味噌をタンクから取り出したりする仕事の頻度が高く、「被告人には犯行を実行する機会があった」と主張した。また「(発見された)1号タンクには160キロの味噌が入っており5点の衣類を十分隠せた」とした。

 さらに、殺された橋本藤雄専務と親しかったという同業の男性が、「2014年3月に再審になったことを知ったが、(5点の衣類は)捏造とは思えない」と証言していることを紹介した。それによれば、事件直後に警察が味噌タンクを捜索しようとした際、こがね味噌の望月という従業員が「商品が損なわれ大損害になる」などと抵抗してやめさせたという。そのため事件翌年に5点の衣類が発見された際、警察に「しっかり捜索していればもっと早く解決した」と怒られたと話していたことも紹介された。その上で検察官は「彼の話からすれば捏造はあり得ない」と主張した。

検事が不安になった

 また、検察は「従業員に警察の協力者がいたことはあり得ない」「他の従業員に気づかれずに5点の衣類をタンクに入れることは不可能」「血染めの服が入っていた味噌なんか気持ち悪くて誰も買わない。製品や会社のイメージが落ちてしまう。従業員がそんなことをするはずがない」と強調した。そして「こがね味噌は事件後にイメージが悪くなり、倒産しかけ、別会社と合併した。その後、5点の衣類が出て昭和47年に富士見物産に吸収合併された」と経緯を話した。

 さらに検察は、5点の衣類の発見時、警察が「とんでもない物が出てきた」と言ったと説明した。当初はパジャマを犯行着衣として裁判を進めていた吉村英三検事は、5点の衣類が発見されたことで「無罪になるのでは」と不安になり、「衣類の仕入れ先など証拠収集を指示した」という。吉村検事が不安になったことは県警の捜査報告書にも書かれている。このことから、少なくとも検察が証拠捏造を警察に指示したり、了解していたりしたわけではないと推測される。

 弁護側は、犯行着衣としたパジャマでは立件が危うくなり、警察が急遽、5点の衣類を捏造したとみている。検察の主張には、これを挫く意図があるのだろう。証拠はないが、捏造はなかったという印象になる。

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