【袴田事件】裁判長は「異臭がするので臭いに弱い方はご退席ください」 記者が再審法廷で目撃した異様な光景とは
12月11日、「袴田事件」の4回目となる再審公判が静岡地裁で開かれた。検察側の「有罪」の主張に対し、弁護側は「静岡県警の捏造」と真っ向から反論。最大の争点たる犯行着衣の「5点の衣類」が法廷に現れたこの日、裁判所は傍聴者らにどう対応をしたか。1966年6月に静岡県清水市(現・静岡市清水区)で味噌製造会社の専務一家4人が殺された事件で死刑判決を受け、無実を訴えている袴田巖さん(87)と姉のひで子さん(90)の戦いを追う連載「袴田事件と世界一の姉」の39回目。【粟野仁雄/ジャーナリスト】
【写真】犯行着衣とされたズボンを巖さんが履く様子。サイズが小さく、太腿までしか上がらない
傍聴席の譲渡を防ぐ仕組み
12月10日、袴田事件再審の第4回公判を傍聴するために静岡地裁に駆け付けた。庁舎前で5556番の整理券を腕に巻かれ、「外したら無効になります」と女性職員に注意された。季節外れに温かい駿府城公園で発表を待った。午前9時45分頃、公園に立てられた小さな掲示板に当選者番号が貼られ、当選を確認した。ひで子さんが法廷で語った初公判(10月27日)ほどの希望者数ではないが、それでも数倍の倍率だった。
受付に行くと、今度は番号が書かれた傍聴券テープを再度手首に巻かれた。普通は小さな整理券をくれるので驚いた。しかも、傍聴券に書かれた3987番と一致する「指定席」に座れとのことだった。2つ目の紙の腕輪も「外したら無効になります」と言われたが、傍聴券を他者に譲渡しないためであろう。例えば、支援者たちが「一目でいいから歴史的な再審法廷を見たい」と思っても、当選した者の代わりに入ることはできない仕組みになっている。
実はこの影響を一番大きく受けるのはメディア各社である。通常、裁判所の傍聴席は記者クラブに加盟している新聞社、放送局、通信社のため、座席に「記者席」と書かれた白いカバーがかけられた席が用意される。そのため、加盟社なら最低でも一社につき一人は入れるが、注目の裁判になるとメディアはそれで満足しない。「死刑判決です」とか「起訴内容を認めました」といった速報を出すために裁判所の外に飛び出す要員など、多くの記者を傍聴席に入れたいのだ。「法廷画家」の席も必要になる。このためにメディアはアルバイトを使って整理券配布の列に並ばせる。結果、記者席以外の傍聴席までをマスコミが占有してしまうことも多かったが、譲渡できなければそれもない。「メディアの占有」を防ぎ、平等になったという意味では、当選した本人しか傍聴できないのは悪いことではない。今回の裁判でも48席中、21席が記者席だった。
厳しい荷物検査
2階の202号法廷で午前11時に開廷する予定だが、その前に荷物検査と身体検査がある。職員が「筆記用具とペン以外は持ち込めません」と繰り返す。カメラ、録音機、スマホ、パソコンなどは御法度である。これらのものは通常の裁判でも使用できないが、持ち込みはできる。
さらに「身体検査で禁止物が見つかりましたら入廷できませんので、お気を付けください」とも注意された。せっかく当たった傍聴券が無駄になってはいけない。必死に確認して身体検査へ。今度は「ポケットの中の物はすべて出してください」と言われた。職員が検知器で背中まで検査し、「腕時計はOKです。はい、どうぞ」と通された。
筆者の荷物検査の横で支援者の男性が職員と口論していた。携帯電話が検査で引っかかり傍聴できなくなったようだ。まるで法廷での復讐を防止する暴力団事件並みのチェックの厳しさだが、この再審公判でそこまでする必要があるのだろうか。
実は11月10日の第2回公判では、入室できなかった西日本新聞社の男性記者が声を荒げたとかでパトカーまで呼ばれる騒動になった。出動を要請したのは庁舎管理権の責任者たる裁判所の所長だ。身体検査で引っかかれば、荷物預かりに戻って預ければいいのではと思う。裁判所という役所は「冤罪被害者を支援する輩は極左や過激派に決まっている」と考えているのだろうか。
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