「マスクは私を差別から守ってくれなかった…」 在日外国人が見た“コロナ禍の日本”

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打たないあなたはワガママだ

 続いては某地方都市在住の30代前半のベトナム人女性Hさんからのいわゆる「ワクハラ」についての報告だ。

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 私はケーキなどの菓子類を作る工場に勤務するベトナム人です。最近、インフルエンザワクチンの接種を連日に渡って強要され続け、最終的に接種をしました。数日経っても腕の痛みと腫れが引かなく辛いです。もしかしたら効く人はいるのかもしれませんが、こんなに痛いのであれば、私には合わないものなのかもしれません。

 私の上司の課長が「打たないあなたはワガママだ」と説教をしてきました。本来、ワクチン接種とは任意であり、本人の意思が最優先されるべきではないでしょうか。新型コロナワクチンについては散々「思いやりワクチン」と喧伝してきてワクチン被害を訴えると、「ワクチンは多くの人々の命を救った!」と推進派は言います。

 弱い立場の従業員に対し、「ワガママ」と言うのは強制に他ならないのではないでしょうか。私が日本語と日本の法律をよくわからないことを良いことに、平気で強制して接種をさせたことについて、私は悲しくなりました。

私達はウイルスの運び屋ではない

 接種する理由は「ルールだから」と課長からは伝えられました。「ルールだから」といえば、本人の意思を無視できるっておかしくないですか? 今の私は結婚を約束した日本人の彼氏がいます。その彼から「日本の法律の感染症法には人権の尊重と何度も何度も書かれている」と教わりました。このような理不尽なルールは立派な人権侵害に他なりません。

 私の職場にはベトナム人だけでなく、ネパール人や中国人なども働いていますが、日本人だけがなぜか接種してなくても許されています。外国人だけが強制的に接種させられています。まるで外国人は恐怖のウイルスの培養器扱いされているのでは、と思うのです。日本は「水際対策」を徹底し、外国人の入国を2023年4月まで制限していました。私達はウイルスの運び屋ではない。ひどい差別を受けたと思います。

 他にも彼氏から予防接種法についても話をされ、ワクチンは「努力義務」で、その対象は「国民」と書かれていると知りました。外国人は除外されているのですか? それでも私達は「努力義務」ではなく「強制」ってことになります。現にそうでしたし。でも、本来日本人に限らず、日本に住む全ての人の個人の意思が尊重され、平等の権利を担保されねばならないはずです。外国人には「強制」というのはおかしいと思います。

思い出すだけで目に涙

 そして、私は新型コロナのワクチンも当初は打たないと宣言し、拒否したのですが、同じ上司の課長から繰り返し接種圧力をかけられて3回接種しました。その時上司から言われたのは「あなたが打たないでコロナになったら、みんなが休まなければいけない。会社も休業しなければならない」。一人の人間の意思を簡単に踏みにじる発言で、会社のことしか考えていないのです。

 一時期、海外から来る外国人が変異株を持ち込む――的な煽り報道がありましたが、それは外国人労働者に対するワクハラに一層の拍車をかけたのでは、と私は感じています。日本人同士でのワクハラは取り上げられますが、言語や意思疎通の難しい外国人を菌扱いして、激しいワクハラが行われた実態も無視しないでほしいです。

 私達外国人も日本社会の一員です。私は日本にやってきて5年になりますが、コロナ前に外国人に対するヘイトスピーチに反対していた人達もワクチン接種の話になると誰も助けてくれず、本当に悲しく残念な気持ちになりました。失望がとても大きく、思い出すだけでも目に涙が浮かびます。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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