「恋人たちの聖夜」って何? いつのまにか「クリスマスイブ」が“家族や友達と楽しむ日”になっていた

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駆け引きの月

 1980年代後半~1990年代後半、12月は「駆け引きの月」だった。12月24日、クリスマスイブに一緒に過ごす相手がいない者は「モテない」「負け組」「惨め」「ブサイク」「落伍者」など、ありとあらゆるネガティブな表現をされたのだから。

 いや、された、というよりは自らそのようなマインドセットに陥っていたといえよう。これは若い男に特に顕著で、12月に入ると友人とは「イブはどうするの?」とジャブを入れ「何もねーよ」「オレもだ(ホッ)」というやり取りがあった。何しろクリスマスイブは「恋人達の特別な夜」という位置づけにあったのだ。

 この日は本命の相手と二人っきりで過ごし、いいメシを食べ、いいホテルの部屋に泊まる。翌朝はバスローブ姿でシャンパンをもう一杯傾け、もう一回どう? みたいな展開になっていたのだ。

シングルベル

 そんな有り様だからモテない男どもは12月10日を過ぎると「もう誰だっていいわ」という感覚に陥り、女性に会おうものなら手あたり次第に「イ、イブの予定、ど、どうなってるの?」とオズオズ聞いた。「先約があるよー」や「彼氏がフレンチを予約してくれたよー」などの返答を得て撃沈していた。この女性も本当は約束など何もないかもしれないのだが、この男の漲る性欲とガツガツした様にこう答えざるを得なかった可能性もある。

 そして男達は12月24日、夕方になっても諦めきれず、ナンパをしようと街に繰り出すものの、元々ナンパする度胸などない者がいきなりこんな難易度の高い日に女性に声をかけることなどできるわけがない。かくして家に帰って母親の手料理を食べたり、寒々しいアパートの部屋で一人カップラーメンをすするのだった。

 しかし、テレビを見てもCMではキラキラした男女が登場し、連ドラもクリスマスイブが最終回になっていたりして、画面の中にはラブラブな二人ばかり。男はリモコンで電源を消し、寒々しい部屋には静寂が流れるのであった。こうしてクリスマスイブに一人で過ごすものは侮蔑と自虐を込め「シングルベル」と呼ばれたのである。

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