大谷翔平の巨額契約「1015億円」のわずか“3分の1”…スポーツ国家予算「359億円」で“後進国”になり下がった日本の現実
各地に設立された野球塾
このままだと、大谷や、これに続く山本由伸らMLB球団と高額契約を結ぶ選手たちに寄付を頼めばいい、という笑えない冗句が真剣味を帯びてしまう。2023年の日本人メジャーリーガーの年俸総額は9人で1億2069万5000ドル(推定)。1ドル150円で換算すると、約181億円にもなる。来季はこれに大谷の増額分と山本らの額が加わり、200億円を超えるだろう。せめて1割ずつ、「税金を払うくらいなら日本に寄付して!」と本気でお願いしたいくらいだ。契約後早速、「大谷がドジャース関連の慈善団体に10億円を寄付」というニュースが報じられた。高額年俸で契約するアメリカのスポーツ選手たちは、そうするのが当然だという認識がある。ならば「日本にも寄付して、お願い!」は決して冗談ではない。
大谷巨額契約のお祭り騒ぎで私の心に暗い雲が広がる理由は、ほかにもたくさんある。「野球塾が流行るだろうなあ」。ふとそんな予測が浮かんだ。最近は、元プロ野球選手らが主宰する野球塾が各地に設立され、未来の「甲子園球児」「メジャーリーガー」を目指す少年たちが多数通っている。学校の部活やリトルシニア、ボーイズなどのクラブチームに所属しながら塾にも通うのだ。
一部の少年にははまっても
勝利至上主義への反省から、「十代の少年少女が特定のスポーツばかりに熱中し、偏った過ごし方をするのは人格形成上好ましくない」という考え方が主流になり始めている。だが実のところ、熱心な親たちはまだその逆を行っている。「大谷翔平の1015億円契約」で、その方向を目指す親子はいっそう増えるだろう。確かに言えるのは、「第二の大谷になれる少年より、なれずに心身を傷めて苦しむ少年たちの方が遥かに多い」という現実だ。しかも日本には、そうした「夢を追いながら叶わなかったスポーツ選手」の心や体をケアする仕組みがほとんど整備されていない。いたずらに「夢」を美化する風潮に、今回のお祭り騒ぎがまた油を注ぐことにならないか、スポーツライターは余計な心配をしてしまう。なぜなら、挫折を味わった親子の苦しみは「それもいい経験だった」と軽く言うには深すぎるからだ。
野球塾の存在を否定するわけではないが、人気のある塾ほど個性があって、独自の理論を売り物にするところが多いようだ。いまならメジャーリーグで主流になっている「フライボール革命」に倣って、極端なアッパースイングを教える塾もある。極端な理論は一部の少年にははまっても、多くの少年には弊害となり、自然な成長を妨げる心配もある。そうした弊害をきちんと伝えるメディアはないから、塾の謳い文句を盲信する親たちが増えるのではないだろうか。
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