83歳で逝去、ティナ・ターナーさんが楽屋で見せた涙 夫の暴力を乗り越えた「ロックの女王」【2023年墓碑銘】

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 長く厳しい“コロナ禍”が明け、街がかつてのにぎわいを取り戻した2023年。侍ジャパンのWBC制覇に胸を高鳴らせつつ、世界が新たな“戦争の時代”に突入したことを実感せざるを得ない一年だった。そんな今年も、数多くの著名人がこの世を去っている。「週刊新潮」の長寿連載「墓碑銘」では、旅立った方々が歩んだ人生の悲喜こもごもを余すことなく描いてきた。その波乱に満ちた歩みを振り返ることで、故人をしのびたい。
(「週刊新潮」2023年6月8日号掲載の内容です)

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「ロックンロールの女王」と称されたティナ・ターナーさんのステージは、あふれ出すエネルギーが観客に降り注ぐといわれた。

 1980年代半ば、ライオンのたてがみのような髪を揺らし、ミニスカートにハイヒール姿で踊りながら声を張り上げる彼女は歌う喜びを全身で表現していた。

 60年代にすでに成功を収めていたが、夫の暴力によりどん底に突き落とされ、はい上がってきた。当時の夫とはアイク・ターナー。ティナさんとの夫婦デュオは世界的人気を呼ぶ。70年に初来日、東京・赤坂の「ムゲン」で公演し、強烈な印象を残している。

 音楽評論家の安倍寧さんは懐かしがる。

「ティナは歌を聴かせるというより客を巻き込み、一体になろうとしていました。でも客にこびない。ティナの声に体が自然に反応して動き出し、踊り出さずにはいられなかった」

 音楽評論家の増渕英紀さんも振り返る。

「アイクがティナをあおり、乗せられてどんどん高ぶっていく様子が伝わってきました。きれいに端正に歌うのとは違う。はみ出しっ放しなのですが、魂からの叫びのようで心に響く。シャイで繊細な面も感じました」

 音楽評論家の湯川れい子さんは言う。

夫のために

「楽屋を訪ねたらティナが泣いていた。その姿が目に焼きついています。アイクによる暴力を後に知り、公演先でも苦しい思いをしていたのだとわかりました」

 殴られた顔の跡を化粧で隠してステージに立つのは日常茶飯事。歌ううちに鼻の奥から喉に血が流れ落ちるのをよく感じたという。

 39年、アメリカ南部のテネシー州生まれ。10代後半、セントルイスのクラブで、リズムアンドブルースを得意とするアイクのバンドに興味を持つ。

 8歳年上のアイクに歌手として組まないかと誘われた。デュオ結成早々の60年にヒットが生まれ、子供も誕生。結婚後に夫の暴力が始まる。恐怖に震える一方、私がいなくなればこの人はどうなるのかと心配する。夫のためにと一層熱演。夫婦デュオの評価はさらに高まり、ローリング・ストーンズの前座を担うまでに。

 ラジオDJで音楽評論家の山本さゆりさんは言う。

「ティナの才能を最初に見いだしたのも、人生をぶち壊したのもアイク。自分より妻に才能があると気付いた。男の嫉妬は怖い」

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