「目が覚めると28時間経っていた」異例の“自殺コミック”を監修した専門家が明かす「NG描写」
主人公に共感できるかは分からない
『ウツパン』の主人公は、自殺念慮や気分の落ち込みの症状を自覚し、精神病院に入院することになる。入院中は友人と散歩をしたりするなど、回復に向かったかと思われたが……。
「主人公の心情は、自殺企図者の中でどれほど普遍性をもったことなのかは分かりません。自殺を考えた人の中には、パンダに共感できる人もそうでない人もいると思います。また、身近な人が自殺で亡くなって、その人の気持ちを知りたいと思って読んでも、人それぞれ自殺の動機は異なるので、必ずしも理解が深まるというわけではないかもしれません」
それでも『ウツパン』が世に出た意義は大きいという。
「『ウツパン』を監修してみて、自殺を描いた作品を世に出すには非常に手間がかかるということがよく分かりました。後追い自殺を防ぐために『この表現なら大丈夫』という明確な基準は無いからです。作者の表現を最大限許容しながらも、影響を受けて自殺する人が出てくるリスクを減らしていくという作業が必要です。当事者の声は貴重なので、その大変なことを乗り越えて出版したこの作品が前例となって、他にも当事者の声を扱った作品が出てくることを期待したいです。色々な自殺企図者のエピソードが積み重なることで、『自殺したい人は何を考えているのか』ひいては、『自殺を防ぐためにどんなことが必要なのか』ということが明らかになっていくと思います」
専門家よりも重要な存在
主人公のパンダには、ヒヨコの姿で描かれた「トリの友人」が支えになった。作者の友人3人を1羽で表現したというこのトリは、精神科に入院中のパンダと一緒に散歩したり、過量服薬で救急搬送されたパンダに付き添ってくれたりする。
「自殺したい人にとっては、専門家だけではなく、トリのように何気ない時間を一緒に過ごしてくれる友人こそが助けになる場合も多いです。作中では、精神科にかかろうとしても予約が2週間後しか取れないという描写が出てきます。これは解消すべき問題ではあるのですが、様々な理由で専門家に 繋がれないという現実があることも事実です。死にたいという気持ちに囚われたときに、1人にならず誰かと一緒にいることは自殺を防ぐ上でとても重要なことです。そして、この漫画を読むと、誰もが誰かにとってのトリになって、『死にたい』気持ちを抱えている身近な人を助けられるということも分かります」
【「死にたい」と言われたら、どうすればいいのか】へつづく
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