貴族に嫉妬する気持ちは今も昔も同じ? ネットニュースでバズる言葉「末路」「三田会」「タワマン」を読み解く(古市憲寿)

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 ネットニュースは見出しが命である。いかにクリックしたくなる見出しをひねり出せるかで、閲覧数は大きく変わり、ひいては広告収入にも直結してくる。

 最近、ある編集者から聞いたのだが、閲覧数が爆上がりするキーワードがあるという。「末路」「三田会」「タワマン」の三つである。

 わからないでもない。どの単語も、人々の率直な欲望があぶり出されているようで興味深い。考えてみれば、昔から人間の関心事というのは大きく変わってないのかもしれない。ぱっと思い浮かぶのは清少納言の「末路」だ。

 約千年前に活躍した歌人で、随筆「枕草子」はあまりにも有名である。宮仕えをしていた彼女が晩年、没落したという説がある。落ちぶれて全国を放浪したとか、荒れ果てた粗末な家に暮らしていたとか、伝説にはさまざまなバリエーションがある。どれも確固たる証拠はなく、恐らくフィクションなのだが、現代まで伝わってきたということは、庶民にとってはさぞ面白い話だったのだろう。

 同様の伝説が小野小町にも存在する。絶世の美女といわれた小野小町が、ホームレスの老婆として登場するのだ。能楽「卒都婆小町」などが代表的である。「末路」というのは時代を超えて日本の大人気コンテンツだったわけだ。

 では「三田会」と「タワマン」はどうか。どちらも現代のアッパーミドルクラスにとって憧れと嫉妬、侮蔑がない交ぜになった対象である。「三田会」は慶應義塾塾員の同窓会組織だが、何やら秘密結社的な雰囲気がしないでもない。実際、三田会を大切にする慶應卒業生は少なくない。

 僕は学部が慶應で、大学院が東大だったが、卒業生同士の結束は慶應の方がはるかに強いように思えた(はい、嫌な感じですね。ただしSFCという学部だったので、三田会に対するロイヤリティーはそれほどない)。

 できれば子どもを幼稚舎から慶應に入れたいと思う人がいる一方で、慶應というブランドにはどこか鼻につく感じもある。

「タワマン」も似ている。都会のタワーマンションは裕福さの象徴でありながら、グロテスクな場所として描かれることも多い。高層階と低層階の格差問題や、見栄の張り合いに疲れたというのはネットニュースの定番記事だ。

 平安時代の貴族は、今でいう「タワマン」住まいの「三田会」会員に近いところがある。きらびやかな都に住み、貴族というクローズドな集団の一員だ。今以上の格差社会であるから、確率的には「タワマン」「三田会」どころの騒ぎではない。そんなふうに栄華を極めた人物の「末路」は、面白おかしく語られた。そう考えると、ネットニュースの人気タイトルと「卒都婆小町」には近いところがある。

 写本や口伝で細々と物語やうわさが伝播した時代から、一瞬で情報が世界中に拡散する時代になっても、人間は相変わらずだ。きっと千年後も、その時代の「末路」「三田会」「タワマン」は人気の話題なのだろう。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2023年12月21日号掲載

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