レアな三世代型ホームドラマ…「コタツがない家」が高く評価される重要な意味

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新しいホームドラマだった

 今は違う。1人っ子家庭は約2割に達している。さらに金子氏は達男と清美が離婚しているという設定にした。現在、夫婦の3組に1組は離婚するから、これも珍しくはない。

 ところが、ドラマとなると事情が違う。1人っ子の主人公が、離婚した高齢の両親のケアをするというドラマは前例が見当たらない。「そういえば観たことがない」と膝を打つ人は多いだろう。知らず知らずのうちに新しいドラマを観ていたのである。これも、この作品が魅力的だった理由にほかならない。

 達男は清美に絵画教室講師・倉谷仁(小堺一機・67)という親しい男性がいると知ると、嫉妬した。自分も栃木県・鬼怒川温泉郷のスナック「晴れ女」のママ・雅枝(明星真由美・53)と同棲していたのに、勝手極まりない。もっとも、こんな人は珍しくないだろう。

 悠作、順基も含め、金子氏はダメ男3人を描いたが、その弱さや狡さには真実味があった。これも評判になった理由だろう。それでいて観る側が3人を嫌悪しなかったのは金子氏の技術だ。

 ドラマを大いに盛り上げた伏兵的存在が、達男のバイト先の友人で「クマさん」こと熊沢徹(西堀亮・49)。うまい配置だった。バイト先での達男との小競り合いも愉快だったが、第7回から深堀家に上がり込むようになると、より面白くなった。

悠作の漫画を原作とする深堀家の騒動記か

 万里江の部下・八塚志織(ホラン千秋・35)の同棲相手・徳丸康彦(中川大輔・25)が結婚に消極的なので、悠作が康彦に会い、背中を押すことになる。打算的で何事も損得でしか考えない悠作は、2人が結婚に至った時にはボーナスを出すことを万里江に約束させた。ここでクマさんがつぶやいた。

「悠作さん、凄いですね。この生活してて、奥さんから金取るんですか」(クマさん、第7回)

 笑えた。その通りである。このセリフを達男、あるいは順基が口にしたら、ただの嫌味になり、クスリともできない。クマさんが言うから笑えた。計算されていた。

 家族の言い争いの前に鳴るゴングも効果的。観る側に「どこまで激しい口論になるのか?」と期待させた。下手をすると、リアリティを大きく損ねてしまう特殊な演出だが、制作者側はそうならない自信があったのだろう。事実、マイナスにならなかった。

 第8回、悠作は離婚に至るまでの経緯を漫画に描いていた。タイトルは「コタツがない家」。その後、離婚は回避されたが、書き続けているのかも知れない。

 ひょっとしたら、このドラマは悠作の漫画を原作とする深堀家の騒動記なのではないか?

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。放送批評懇談会出版編集委員。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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