「不倫くらいで謝罪なんて呆れてものが言えないね」 梅宮辰夫さんが語っていた「芸能界への遺言」
今の芸能人は「好感度」ばかり気にしている
〈家族を愛し、バラエティー番組でいじられることも受け容れていた梅宮さんだが、芸能界に対しては厳しい見方も口にしていた〉
早い話が、いまの芸能人は、天気予報のお姉さんやアナウンサーと変わらない、テレビ番組を成立させるための“放送要員”なんですよ。万人に好かれ、スポンサーにも気に入られる好感度タレントばかり。
悪役でもタバコは吸えないし、車で逃亡するときもシートベルトを締めるんだからさ。カリスマ性もなければスター性も皆無。
僕らの時代のスターは、好感度の代わりに不良性感度が高くて、近寄りがたいオーラを発していましたよ。石原裕次郎さんなんて現場で朝からビールを呷(あお)って、長い脚で窓枠を跨いでスタジオに入るんだけど、それを見て僕らは「すげーなぁ」と憧れた。
でも、そんな俳優はもう出てこないでしょう。不倫くらいで謝罪会見なんて呆れてものが言えないね。
品行方正なタレントなんてくだらない。映画界や芸能界は昭和のほうがはるかによかったよ。芸能界に限った話じゃないけど、いまの日本は古き良き時代に対する敬意が足りないと思う。目先の現実だけに生きている人間ばかりで、昔の良いところを振り返らない。昭和のほうがよかった部分もあると思うけど、それに全然気づかないんだ。
僕が銀座に通っていた頃は、いつもオールナイトの映画館が満員御礼でね。席は埋まってるから階段に新聞紙を敷いて、仕事終わりのホステスや黒服が、握り飯を片手に映画に見入っていた。そのうち、スクリーンに向かって“よっ! 健さん! 待ってました!”“裕ちゃーん、いいよー!”と歓声が上がる。自分の映画がかかるときは、評判が気になってこっそり覗きに行ったけど、あの熱気はいまでも忘れられないね。
いまの芸能界に未練はないけど、それでも僕が引退せずに役者を続けているのは、報告しなきゃならないと思ってるから。天国の裕次郎さんや鶴田浩二さんに、いまの芸能界はこうなんですよって現状を伝えたい。あまり気分の良い報告はできそうにないけどな。
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週刊新潮で6度目のがんを告白した際、事前に原稿を確認した梅宮さんから訂正の指示は一切なかった。その代わり、
「悪いんだけど、記事の最後にこう付け加えてくれないか」
と相談があった。実際の記事には、命ある限り俳優の本分を全うしたいという「生涯現役」宣言に続けて、以下の言葉を書き加えている。
――自分を鼓舞するためにこう言わせてください。「がんばれ! 梅辰サン!」――。
梅宮さんを支えたのは家族への愛と、終生変わらぬ「昭和の銀幕スター」としての意地と誇りだった。