上野・宝石店強盗「さすまた」特需に警察OBが警鐘 「さすまたは問題が多く、使わないほうがいい」
致命傷を負わないという鉄則
「その上で、もしオフィスや店舗、自宅に護身用具を準備するのなら、さすまたより金属バットやゴルフクラブのほうがお勧めです。どちらも扱いやすいですし、さすまたと違って犯人に打撃を与えることができます。さらに重要なのは、盾になるものも用意しておくことです。刃物を振り回す犯人に立ち向かう際、生身だとびっくりするほどケガを負います。鍋の蓋でもないよりはマシなので、これを利き手とは反対の手で持ち、利き手にバットやゴルフクラブを持つのです」(同・田村氏)
護身用具を準備していない状況で襲われるケースも考えられる。電車の中で刃物を持った男が自分に迫ってきたとか、路上を子供と一緒に歩いているところを襲われ、わが子を守らなければならないという状況だ。
「こうした時は、致命傷を負わないことを最優先にしてください。目を刺されるとその奥の脳幹が破壊され即死します。また、身体の正中線や内側、例えばお腹を刺されたり、脇を斬りつけられると重傷を負う危険性があります。一方、前腕の外側は多少切られてもその後に止血すれば簡単には死にません。バファリンなど血をサラサラにする薬を飲んでいる場合は止血が困難であるため注意が必要ですが、カバンを盾にして刃物を持った犯人に突っ込むとしたら、腕にケガを負っても構わず、致命傷となる部分は守るのです。後は犯人をボールペンや傘で突くとか、脱いだ靴のかかとの部分で殴りつけるとか、そんな時間もなければ素手で殴るとか、ありとあらゆる方法で相手を攻撃することが生き残る可能性を高めます」(同・田村氏)
シミュレーションの重要性
何よりも重要なのは「犯人に対峙する」という強い意思だという。
「刃物を持った犯人は、『武器を持っている自分は強い』と思い込んでいます。ところが、心の奥底では恐怖を感じているのです。そのため、刃物を見せれば言うことを聞くだろうと思っていた相手が躊躇なく全力で立ちむかってきたら、一気に恐怖心が沸き起こります。本来なら犯人が強者のはずですが、力関係が逆転するのです。上野の宝石店で起きたことも同じです。犯人たちは店員が反撃に転じるとは考えていなかったので、誰もが腰砕けになってしまったのです。強い意思を持つためには、日頃から心の準備をしておくことが必要です。『もし電車の中で刃物を持った男が襲いかかってきたら』、『買い物をしているコンビニで強盗が襲ってきたら』といったことを、折に触れて想像するのです」(同・田村氏)
かつて日本は「水と安全は無料」と言われた。だが、「今や昔」だという。もし襲われたらという心構えを持ち、強い意思で行動することが求められる時代になったようだ。
「現役の警察官と情報交換することは多いのですが、日本の治安悪化を予想する声が圧倒的です。もちろん、1カ月後、1年後はそこまで悪化していないでしょう。しかしながら10年先、20年先となると、今とは変質した日本社会になっている可能性があります。欧米のように治安の良い場所と悪い場所の二極化が進んでいても不思議ではありません。『自分の身は自分で守る』ことが求められていくことになると思います」(同・田村氏)
註:〈上野・さすまたで強盗撃退〉「立ち向かった大柄男性は元力士なの?」「そもそもなぜ店に『さすまた』があったのか?」被害店の役員が明かすウワサの真相(集英社オンライン:11月29日)