上野・宝石店強盗「さすまた」特需に警察OBが警鐘 「さすまたは問題が多く、使わないほうがいい」

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叩くほうがマシ

 先日、田村氏は東京都内の中学校から依頼を受け、教師や保護者、生徒の前で防犯講習を行った。その際、「さすまたがどれほど役に立たないか」を実際にやってみせたという。

「その中学校にはさすまたが常備されていたので、2本を使うことにしました。ちょうどPTAの役員に現役の自衛官の方がいらっしゃったので、その方を含めた2名にさすまたを手渡し、私を押さえつけてくださいとお願いしました。まず、U字の金具を体に押し付けられても、痛くもなんともありません。私が暴れると簡単に跳ね除けることができます」

 実際に強盗が押し入った時、2人1組のペアを作ることさえ容易ではない。さらに、非力な女性がさすまたを犯人に向かって突き出したとして、押し返すことは簡単だ。仮に屈強な男性が犯人を地面に押さえつけることに成功しても、U字の半円が大きければ抜け出すこともできるという。

「護身の基本は、相手の戦意を喪失させるだけの痛みを与えたり、脅威を見せつけることです。そのため、さすまたしかないとしたら、さすまたで犯人を叩くほうがまだマシです。警察官といってもピンキリで、戦闘経験の浅い者は『いくら相手が犯人でも、さすまたで殴ると過剰防衛の危険性がある』と指導するかもしれません。しかし耳を傾ける必要はないでしょう」(同・田村氏)

 刃物など凶器を使った犯罪者の攻撃から命を守るため、さすまたで殴ってケガを負わせることで撃退。警察に引き渡したとして、過剰防衛の刑事責任を問われることは、まずないという。

「大切なのは、自分、または他人の生命・身体・財産を守るために必要な行為であるか否かです。例えば学校の先生に武術の達人がいたとして、殴ることなく簡単に犯人を制圧できるのであれば殴る必要はありません。正当防衛はあくまでも防衛に必要な反撃を許すものであって、相手を痛めつける目的であったり、復讐する目的で行ってはなりません。そのポイントさえ間違えなければいいのです」(同・田村氏)

逃げることも大切

 上野の貴金属店で強盗を撃退した映像を改めて見ると、店員は強盗を取り押さえようとはしていない。むしろ、さすまたでバイクを叩くなどして威嚇していることが分かる。

 集英社オンラインが11月29日に配信した記事(註)によると、近隣のショップ店員は撃退した店員について《身長180センチは優に超えてたし、体重も120キロ以上あると思います。30代くらいで元力士だと聞いたことがあります》と証言している。

「貴金属店の動画から学ぶべきことは、さすまたが優秀だということではありません。撃退した店員が強かったのです。あれだけ屈強な男性がさすまたを手に持って出てきたことで、犯人側は圧倒されてしまいました。普通の人はあそこまで体格に恵まれていませんし、護身術の知識も持ち合わせていないでしょう。こういう場合、護身術の原点に立ち返る必要があります」(同・田村氏)

 大前提として、逃げることを忘れてはいけない。特に1人で犯人からある程度の距離を確保できている場合は、逃げるのが最も適切だという。

 強盗に店が襲われた場合も変わらない。まずは逃げて110番するのが基本だ。ケガするだけでも馬鹿馬鹿しいのに、命を落とすようなことになれば元も子もない。

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