景気悪化でEUの足を引っ張るドイツ 極右政党が市長選で勝利、第一党になる日も時間の問題か

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不動産バブルの崩壊から長期の不況へ

 住宅価格が下落している主な要因は大幅利上げだ。欧州中央銀行(ECB)の政策金利は4.5%に達している。ECBはロシアのウクライナ侵攻に伴う急激なインフレを抑えるため、昨年7月から10会合連続で利上げを行うなど過去最速のペースで引き締めを行った。

 ECBによれば、ユーロ圏の銀行の総融資額に占める住宅ローンの割合は3割に上る。金利の上昇は住宅ローンの返済負担を急増させており、「焦げ付きが増加すれば銀行不安につながる」との不安が頭をもたげている。

 住宅用不動産以上に深刻なのは商業用不動産だ。

 ECBは11月21日「ユーロ圏の商業用不動産市場は厳しい状況が今後数年続き、銀行や保険会社などがリスクにさらされる可能性がある」と警告を発していたが、そのリスクが顕在化している。

 欧州各国で商業用不動産事業を展開するシグナ・ホールディングスが11月29日、経営破綻した。欧州の不動産企業として過去最大級の破綻によって、ドイツやオーストリア、スイスの金融機関が多大な損失を被ったと指摘されている。

 30年前の日本のように、不動産バブルの崩壊は長期の不況をもたらす可能性が高いと言わざるを得ない。

景気が悪くなれば「よそ者(移民)」への反発が

「泣き面に蜂」ではないが、ドイツの政治家にとって移民の問題も悩みの種だ。

 オランダで11月、「反イスラム」を掲げるウィ ルダーズ党首率いる極右の自由党が第1党に躍進した。「極右への追い風はさらに強まっている」と筆者は考えている。

 パレスチナ自治区ガザでの戦闘により、世界で発生する避難民の数が過去最大になることが見込まれている(12月13日付ロイター)からだ。

 ドイツ公共放送連盟(ARD)と調査機関のドイチュラントトレンドによる毎月の世論調査(11月発表分)によれば、「次の日曜日に連邦選挙があった場合、どの政党に投票するか」の設問で、極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)が22%で2位だった。

 連立与党の保守系統一会派であるキリスト教民主同盟/キリスト教社会同盟(CDU/CSU)が30%で1位だったものの、政権を担うドイツ社会民主党(SPD)は16%、緑の党は14%、自由民主党(FDP)は4%と低調だ。

 景気が悪くなれば、「よそ者(移民)」への反発が強まるのは世の常だ。

 12月17日、AfDの立候補者がドイツ東部ザクセン州ピルナ(人口は約4万人)の市長に当選した。AfDがドイツの市長選で勝利したのは初めてだ。「AfD旋風」はとどまるところを知らないといった印象だ。

 政権与党に対する不満から、ドイツでは総選挙の早期実施を求める声が高まっている。ドイツで極右政党が第1党となるのは時間の問題なのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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