中国がマレー半島に造ろうとしている巨大運河 莫大な通行料をエサにタイ領に進出か

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自前で国内線の旅客機を製造

 ところで一帯一路構想は陸路と海路だけだろうか。ここにきて筆者の耳に日本の産業界から、気になる情報が飛び込んできた。

「中国は電気自動車部品を国内調達で賄うと決定したのに続いて、国内線の旅客機もほとんどを自国技術で製造し、アメリカ連邦航空局(FAA)や欧州航空安全機関(EASA)の認可なしで飛ばすと決めたようです」

 情報源は明かせないが、中国が自前で製造する予定の国産旅客機はなんと約2千機。ボーイング社の年間受注台数の3倍近い。

 防衛大学校の田中宏巳名誉教授(近代日本軍事史)は、

「中国は以前にも旅客機製造を計画し、海外からも引き合いがありましたが今回、全て自前で賄うとは驚きです。アメリカの認可なしでは本来難しく、日本の三菱飛行機はFAAの認可が取れずに頓挫しました。しかし、広い中国国内を飛ばすだけならFAAやEASAの認可は必要ない。すでに1200機のオーダーが入ったとの情報です。ボーイング社やエアバス社は痛手になるでしょう。ただし航空エンジンの開発は簡単ではなく、とりあえずイギリスのロールスロイスかアメリカのエンジン(P&W)を使うでしょう。それもいずれ国産化するでしょうが、日本が一機も造れていないのと対照的です」

 旅客機を自前で造れるのなら、東南アジアばかりか、アフリカ諸国からのオーダーもあり得る。一帯一路は空にも広がっていることを忘れてはいけないのだ。

不良債権は15兆円

 かくも世界中に網を広げている一帯一路だが、相手国にとってそれは、対等な関係になるとは限らない。昨年9月時点で中国が「一帯一路」関連で直接投資した金は累計35兆円(政府発表)。そのうちスリランカ、ラオスなどに対する不良債権は約15兆円とも推測されている。

 事実上、中国に高速鉄道を造ってもらったラオスは債務が国内総生産を超え、「債務のワナ」にはまったままだ。中国が代償として求めてくるものは、運営権を譲渡したスリランカのハンバントタ港の例を見るまでもない。そして、超大国同士であるはずの中国とロシアの関係もしかり、だ。

 この10月、「一帯一路の国際フォーラム」で、プーチン大統領は習主席との「蜜月ぶり」を誇示してみせた。その一方、中国のガス需要の増加の見込みがないのに、ロシアはモンゴル経由の天然ガス供給契約の早期合意を目指しているとも報道されている。主導権は明らかに中国が握っているように見える。折しも来日したヒラリー・クリントン元米国務長官が10月19日のフジテレビのインタビューで「中国はロシアを従属国化しようとしている」と予言していたのが印象的だ。

 かつて、大日本帝国は「北守南進」に国策の舵を切り、世界を巻き込んで暴走を始めた。「一帯一路」が、そうならない保証はどこにもない。中国はこの地球をアメリカと二分する腹らしい。

早瀬利之(はやせとしゆき)
作家。昭和15年、長崎県生まれ。昭和38年、鹿児島大卒。著書に『タイガー・モリと呼ばれた男』『石原莞爾 満州ふたたび』『敗戦、されど生きよ』などがある。石原莞爾平和思想研究会副会長。

週刊新潮 2023年12月14日号掲載

特別読物「暴走『一帯一路』の“総仕上げ” 中国が『マレー半島に巨大運河』」より

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