中国がマレー半島に造ろうとしている巨大運河 莫大な通行料をエサにタイ領に進出か
資源と運搬ルートの確保
人口14億人を抱える中国は巨大な内需と生産力を常に満たす必要がある。それには、あらゆる手段で物資を手に入れる一方、販路を確保しなくてはいけない。
習主席がカザフスタンを訪問した際、「中央アジアから欧州へ延びる陸路構想」(一帯)を提唱したのは10年前の9月。翌10月にはインドネシアにおいて、東南アジアやインド、アフリカを経て欧州に至る「二十一世紀海のシルクロード」(一路)を打ち出した。二つを合わせて「一帯一路」となるわけだが、それを支えるため国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」が15年に設立される。
一帯一路は米オバマ政権(当時)が提唱した環太平洋経済連携協定(TPP)に対抗するための貿易圏構想ともいわれ、以来、これに参加を表明する国は、南米、アフリカも含めて150カ国にも及んでいる。参加国の事情はさまざまだが、中国にとっては資源と運搬ルートの確保が大前提だ。
防衛研究所中国研究室の飯田将史室長が言う。
「すでに中国はロシアからの天然ガスの輸送ルートを構築していますが、南側からのルートも確保しようとしています。具体的にはパキスタン、ミャンマーといった友好国に、インド洋につながる物流設備を造っている。また、ミャンマーでは天然ガスの生産も始まっていて、すでに石油・ガスのパイプラインを、シットウェという西部の港町まで通しています」
飯田室長によれば、パキスタンにおいて一帯一路構想は浸透しており、中国とを結ぶ高速道路が稼働している。イラン国境に近いグワダル港で石油・鉱石などの物資を陸揚げし、中国の援助で竣工した道路(グワダル東湾快速道路)から、中国本土に物資を運ぶのだ。
カンボジアに中国軍
同様のインフラ開発はタイ、カンボジアでも起きている。3年前にカンボジアを視察した技術力で定評のある中堅ゼネコンの幹部・秋田次郎氏(仮名)によると、
「カンボジアの港湾に行くと『一帯一路』と書かれた中国語のデカい看板と中国企業名だらけでした。すでに港湾は完成しているはずで、まるで中国国内の港のような光景でした」
そのカンボジアでは、最近になってタイランド湾に面したリアム海軍基地に中国の船が頻繁に出入りし、中国軍の専用施設の建設が進められているとの疑惑を米国防総省が指摘している。
タイでは、前政権のチャンオチャ首相時代から、中国―バンコク間の高速鉄道敷設が計画されている。すでに鉄道は2021年、ラオスの首都ヴィエンチャンまで延びている。中国からラオスには直接乗り入れができ、ラオスの主力産品である果物も出荷され、昆明、重慶へと運ばれるなど人と物資の交流が始まっている。高速鉄道は将来、約500キロ南のバンコクまで延伸される計画で、5年後の開通が予定されている。メコン河支流の架橋工事が難航しそうだが、前出の秋田氏によると、
「中国の架橋工事、防錆ワイヤー技術はもともと私どもの技術をパクッたものですが、今では世界トップクラス。その進歩は侮れません」
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