なぜ東京でだけ「内申書批判」が過熱するのか 専門家が明かす“3つの特別な事情”

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一発勝負の問題点

 おおた氏は「東京都で内申書を巡る議論が活発化しやすい」ことは認めながらも、「極端に振れるのも問題」と指摘する。

「ある制度が妥当かどうかを考える際、極端に逆の制度を想定してみると、見えてくるものがあります。内申書を全否定すると、『ペーパーテスト一発勝負』になります。これが実施されれば、それはそれで反対意見が沸き起こるのは間違いないでしょう。一発勝負の弊害もあるからです。ペーパーテストと内申書の両方で合否を決めるという現行の入試制度は、理念的にはバランスが保たれています。制度そのものよりも納得できる運用ができているかどうかが問題なのです」

 一発勝負のどこが悪いのか。よく入試当日の体調が例に出されるが、おおた氏はもっと根源的な問題があるという。

「例えば、ペーパーテストは時間の制約がありますから、中学3年間に習ったことの全てが出題されるわけではなく、その一部が出題されます。この際、出題された単元がたまたま得意だった受験生もいれば、たまたま苦手だった受験生もいます。ペーパーテスト一発勝負は“運”に作用される要素がかなりあり、それが中学3年間の学習成果を公平に測っているかと言われたら、多くの人が疑問を抱くでしょう」(同・おおた氏)

実技倍も問題なし

 入試に内申書を取り入れると、中学3年間、こつこつ積み重ねてきた普段の成績も反映させることができる。制度設計として間違ってはいない。

「実技4科目の評点を倍にするという基準も同じです。そもそも生徒の得意・不得意を取り上げればきりがありません。英語は語学センスがある生徒とない生徒では、相当な差が生じます。数学も小学校1年生からずっと得意というタイプの生徒も珍しくありません。体育が苦手な生徒もいれば、得意な生徒がいるのは当たり前のことです。むしろ実技4科目の評価点を倍にすることで、体育や芸術が得意な生徒をしっかりと評価することができます。何より5科目と実技のバランスが取れた中学生を求めるという都立高の姿勢を明らかにしていると見るべきでしょう」(同・おおた氏)

 内申書を巡る議論の原点を追っていくと、1991年に改定された新指導要録にたどり着くようだ。文部省(当時)は小中学生の評価の元になる指導要録の変更に着手。「関心・意欲・態度」などを絶対評価する「観点別学習状況」を生徒の評価の「基本とする」ことを決め、最重視する姿勢を打ち出した。

 その一方で、文部省は内申書については何も言及しなかった。しばらくの間は従来通りの「5段階相対評価」が続いた。

 変化が起きたのが1994年4月。東京都を含む多くの地方自治体で、内申書に「観点別学習状況の評価」を記入することが決まったのだ。

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