学力テスト「全国トップクラス」の秋田県で、公立高校の“定員割れ”が続出…難関大進学者数が増えない根本的な理由
県内特有の環境も、大学進学率に影響している
では、秋田県内の進学校の生徒は基礎学力が低いのか。塾講師は「学校の名誉のために言うけれど、そんなことは絶対にない。大都市の名門私立でも通用する、驚くほど学力の高い生徒はたくさんいる」と、話す。
「秋田県の公立高校には、高一のときから優れた指導を受け、東大を受験すれば合格できる生徒は多いはずなんです。ところが、県内の問題として、浪人のリスクを嫌い、親が難関大学を受験させたがらない傾向が強い。他にも、東京に生徒を送り出すと二度と地元に戻ってこなくなり、後継ぎがいなくなる……と言って、東北地方から外の大学を受験させないという親が、少数ではありますが、未だにいるのです」
秋田県出身で『釣りキチ三平』でおなじみの漫画家・矢口高雄氏は、高校進学を志望したところ、「百姓に学問は要らない」と家族から一度は止められたというエピソードがある。こうした昭和の時代に見られた価値観が、県内には根強く残っているという。そもそも、周囲の人たちに大学受験の知識がないうえ、奨学金の制度すら知らない親も多いというのだ。
「本当は東大を受けたいのに、万が一浪人してしまうと予備校代を出せないからという理由で泣く泣く諦めた生徒を見たときは、涙が出ました。私も親を説得しましたが、覆りませんでした。繰り返すようですが、人生、大学進学だけがすべてではありません。ただ、10代のときにやりたいことを妥協してしまうのは、生徒の将来を考えると本当にもったいないと思います」
高校の価値は大学進学率だけで語るべきではない。地方の公立高校は地域で活躍する人材を育てる場としても重要だ。しかし、県はこれまで公立高校の問題に対し、真剣に向き合ってきたとは言い難い。これほど深刻な定員割れを起こしてしまうと、あらゆる面で県全体の学力に与える影響が大きいのは明らかだ。地域の人々も一丸となり、高校の在り方について、知恵を絞る段階に来ているのではないだろうか。