「ブギウギ」は笠置シヅ子、「らんまん」は牧野富太郎…モデルがいる朝ドラ作品の難しさとは

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草なぎはうまいのか

 モデルがいると、ストーリーがオリジナル作品ほど話題にならない分、俳優の演技が俎上に上るらしい。服部良一さんをモデルとする作曲家・羽鳥善一を演じている草なぎ剛(49)も吟味の対象になっているようだ。

 ドラマ界、映画界で草なぎの演技力を疑う人間はいないはず。映画「ミッドナイトスワン」(2020年)では日本アカデミー賞最優秀主演男優賞やブルーリボン賞主演男優賞など各賞を総ナメにして、厳しかった演出家・つかこうへいさん(2010年死去)からは「あいつは天才」と太鼓判を押されていたのだから。

 ただし、草なぎの演技力を誤解する人がいる理由はなんとなく分かる。ちょうど2年前、映画監督の中島貞夫さん(2023年死去)に「どんな俳優がうまいのか」と聞き、記事にした。その答えがこうだ。

「まず、うまい俳優は2通りあります。『特定の役をやらせると天下一品の人』と『どんな役でも出来てしまう人』です」(同・中島監督)

 近年は「カメレオン俳優」などという言葉が流行し、どんな役柄でもこなせる俳優が持てはやされる傾向が強い。このタイプの俳優は主に劇団の出身で、劇団では老人から悪党まで演じることを求められるから、どんな役柄も演じられるようになるのだ。このタイプだけが“うまい俳優”だと思っている人を見受ける。

 ただし、特定の役をやると絶品という俳優もうまい。むしろ中島さんはこちらのタイプを好むと言っていた。草なぎを可愛がっていた高倉健さんも、誠実で昔気質の男を演じたら天下一品だった。健さんはどんな役柄でも演じるタイプではなかったものの、誰もが認める名優だ。

 草なぎも誠実で、誰かに尽くす役をやらせたら絶品。「ミッドナイトスワン」で演じたトランスジェンダーも最初は悪ぶっていたが、やがて遠縁の少女の夢をかなえるため、死にものぐるいになった。映画館内が嗚咽に包まれたのは草なぎが演じたからだ。「ブギウギ」での草なぎは今後も羽鳥として曲づくりに励み、スズ子に尽くすのだろう。

 放送は残り約半分。スタッフと俳優たちは何を見せてくれるのか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。放送批評懇談会出版編集委員。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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