「隠し球デッドボール」に「究極の挟殺プレー」 2023年パ・リーグで起きた“嘘のような珍プレー集” リプレー映像がないトラブルも発生

スポーツ 野球

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西武・松井監督が“リクエスト”するも

“証拠不十分”のサヨナラ劇の珍幕切れとなったのが、8月12日のロッテ対西武である。

 1対2とリードされたロッテは9回裏、中村奨吾の右前安打と代打・岡大海の中越え二塁打で1死二、三塁のチャンスをつくると、佐藤都志也が増田達至から8球粘って中前に同点タイムリーを放つ。

 なおも1死二、三塁のサヨナラ機に、1番・荻野貴司は浅い中飛を打ち上げた。「やべえ! 岡、頼む!」と必死にお願いするほど、微妙な飛距離だったが、そんな荻野の思いが届いたのか、タッチアップした三塁走者の岡は、捕手・古市尊と交錯しながらも執念のホームイン。センター・長谷川信哉の送球も大きく三塁側にそれ、ロッテが鮮やかな逆転サヨナラ勝ちを収めたかに見えた。

 ところが、直後、西武・松井稼頭央監督が、岡の離塁が早かったとして、リクエストを要求するではないか。

 そして、約3分のリプレー検証後、思いもよらぬまさかの結末が待っていた。責任審判の本田英志球審は場内放送で「(三塁走者と中堅手の捕球を同時に収めた)リプレー映像がありませんので、判定どおり、得点とします」と説明。検証不可能でサヨナラ勝ち成立という前代未聞の珍事となった。

“不思議の勝ちあり”に、ロッテ・吉井理人監督は「もしアウトなら延長(戦)。冷静に待っていた」と泰然自若。一方、松井監督は「映像がない以上はね。僕らが(離塁が)早いと思って、最後の最後まで可能性を探っただけ」と仕方がなさそうな表情だった。

一、二塁間に大集合

 挟殺プレーに総勢8人が参加するという“大捕り物劇”が見られたのが、9月2日の日本ハム対オリックスである。

 1対0とリードしたオリックスは6回2死無走者、2番・茶野篤政がカウント1-2から伊藤大海の4球目、外角寄りのスライダーを打って、遊ゴロを転がした。

 ところが、細川凌平の一塁送球がワンバウンドでそれてしまう。この隙に茶野は50メートル5秒9の俊足を飛ばし、一挙二塁を狙ったが、日本ハム内野陣も絶妙のフォローを見せる。ファウルグランドで捕球したセカンド・上川畑大悟がすぐさま二塁ベースカバーの細川に送球し、茶野は一、二塁間に挟まれてしまった。

 何とか包囲網を逃れようと、一塁方向に慌てて引き返した茶野だったが、ボールは細川から一塁ベースの前で待機していた捕手・伏見寅威へ。その後ろにはファースト・マルティネスも控え、備えは万全だ。

 再び二塁に向かった茶野だったが、伏見から送球を受けたサード・清宮幸太郎に前を遮られる形となり、ついにタッチアウトになった。

 この時点で二塁ベース付近にはレフト・王柏融とセンター・松本剛も駆け寄ってきたため、ライト・万波中正を除く8人が一、二塁間に大集合する珍事に。日本ハム時代の西川遥輝が、2016年6月10日の阪神戦で、三本間に挟まれ、計5人にボールが転送されてアウトになる珍プレーを演じているが、ボールに触れなかった選手を含めての人数ならこちらが上回る。

 この模様を映した動画が「パーソル パ・リーグTV」の公式X(旧ツイッター)で公開されると、「多すぎて笑った」「誰かが邪魔になって走塁妨害をとられそう」などのコメントが寄せられた。

 しかし、そんな“究極の挟殺プレー”も実らず、0対1でゲームセット。被安打2、自己最多タイの11奪三振を記録した伊藤は、2回から9回まで遊ゴロエラーの茶野以外の走者を許さない力投も報われず、負け投手になり、「初回(の失点)がもったいなかった」と悔やむことしきりだった。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

デイリー新潮編集部

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