「いまアラフィフの役者には“当たり役”があった」 「亀山千広」BSフジ社長が明かす『ビーチボーイズ』復活の理由
『GTO』も復活
くしくも、同じく反町隆史が主演の連続ドラマ『GTO』が、26年ぶりに新作スペシャルドラマとして復活することが発表された。当時、大きな話題を集めた作品が、立て続けによみがえる。「偶然ですか?」、そう亀山氏に質すと、「たまたまだと思いたい」と笑いながら、「そうしたドラマが増える素地はある」と続ける。
「反町くん、竹野内くん、木村(拓哉)くん、織田(裕二)くん、福山(雅治)くん……、あの時代、キラキラしていた20代の役者たちが、90年代から00年代初頭にかけてかたまりのようにドラマの現場に登場した。いま、彼らはアラフィフになりましたが、いまだにトップクラスで活躍している。あのキャラクターの何年後が見たい――そうしたニーズはあると思う」
織田裕二がカーキのモッズコートを着れば、『踊る大捜査線』の青島俊作の姿を。木村拓哉が茶色のダウンジャケットを着れば、『HERO』の久利生公平の姿を想起する。白いTシャツ姿の反町隆史を見れば、『ビーチボーイズ』の「桜井広海だ!」と声を上げ、黒地に星のTシャツ姿の反町隆史を見れば、きっと「『GTO』の鬼塚英吉だ!」と思いをはせるに違いない。当時、ドラマを見ていた世代にとって、脳裏に焼き付いているキャラクターは多い。
裏を返せば、「男女問わず、いまアラフィフの役者たちは“当たり役”を持っていたということ。ドラマ自体に、そういう力があったんじゃないか」と、亀山氏は語る。
「もちろん、その役をもう一度演じるか演じないかは、演じた役者にしか分からないことですから、人ぞれぞれだと思います。しかし、記憶の中に残っている人は多い。“あのドラマが復活する”、それだけで成立してしまう強みがある。役者たちと、そうしたドラマを作ることができていたわけですから、僕自身、幸せなことだったと思います」
「室井慎次の立場になっていた」
半面、リバイバルに頼らない、当時ドラマを見ていた視聴者に訴求できるものも作らなければいけないと付言する。
「役者が歳を重ねたように、視聴者も歳を重ねている。心境や立場の変化があるはずですよね。そうした視聴者の心情をくみ取れるドラマは、需要があると思う」
亀山氏は、40歳のときに『踊る大捜査線』、『ビーチボーイズ』をプロデュースする。そのときを振り返ると、一人のプロデューサーとして奔走する青島俊作のような立場だったと語る。だが、98年に『踊る大捜査線 THE MOVIE』が大ヒットを記録すると、次作『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』のときには、編成局長へと昇格していた。「室井慎次の立場になっていた」、そうこぼす。
「いかに組織を回すか、跳ねっ返りの若手をどう使うか、そういったことを考える立場に変わったわけです。同じドラマを見ていても、感情移入できるキャラクターが変わるわけですよね。今は、お仕事系ドラマが多い。そこにはいろいろな世代が登場するはずです。それぞれが“分かる、分かる”と思えるように作らないといけないと思うんです」
その上で、「一つだけ腹をくくらないといけないのは、無理をしてまで恋愛要素を入れないこと」と指摘する。
「反町君や竹野内君を主演格に置いたドラマがあるとして、若手の女優さんがあこがれるという設定であれば分かります。しかし、恋愛にまで発展すると、嘘くさくなる。これでは、同じ世代の視聴者は感情移入できない。“あこがれます”と言われたときに照れたり、“若い世代と話をするにも、どう話していいか分からない”と悩んだりした方がリアルですよね」
実際、『ビーチボーイズに憧れて』では、小沢、徳井両氏が、若い頃とは違う決断を下さなければいけない葛藤を演じている。『ビーチボーイズ』を見ていた世代は、その姿にうなずくのではないだろうか。
「自分で夏は終わりだと思ったら、その時が終わりなんじゃないかな」
反町隆史演じる桜井広海が、『ビーチボーイズ』の劇中で口にするセリフだ。
若い時代は、誰もがキラキラ、ギラギラしている。しかし、歳を重ねてくると、どこかで人生の秋の気配を感じる瞬間がある。単にリバイバルすればいいというわけではない。
名作と言われるドラマが復活する。それは、自分が歳を重ねたことを肯定するための、答え合わせなのかもしれない。
後編【“恋愛ドラマが苦手”な「亀山千広」BSフジ社長は、なぜ“月9”の立役者になれたのか? 「コンプレックスがないとドラマは面白くない」という哲学】へつづく