初舞台から17年…春野恵子が「浪曲の世界」を語る 9年も前にクラウドファンディング、今年とにかく緊張した公演とは

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大舞台での「笑福亭仁鶴一代記」

 今年、恵子さんがいつになく緊張する公演があった。

 8月17日に吉本新喜劇の殿堂「なんばグランド花月」で、21年8月に84歳で亡くなった笑福亭仁鶴の三周忌追善落語会の舞台に大抜擢されたのだ。生前の仁鶴は浪曲が好きだった。司会役で弟子の笑福亭仁智(上方落語協会会長)は、「春野恵子さんの『笑福亭仁鶴一代記』です」と力を込めて紹介した。この日の登壇者は仁智、桂文枝、月亭八方、桂南光ら錚々たる顔ぶれだった。

 恵子さんは「口の悪い友達に『よく引き受けたね』と言われました」と打ち明け、自作の「一代記」を披露した。仁鶴の産声を「大発見やあ」と叫んだ。コロンブスを主人公にした1970年のヒット曲「大発見やァ!」で仁鶴が叫ぶ台詞である。

 若き日の仁鶴は初代桂春団治の落語に感動して落語家を目指し、笑福亭松鶴に弟子入りするも売れない。そのうち吉本興業入りを勧められた。恵子さんは「当時は、吉本興業さんより松竹芸能さんの方がずっと力があったんです」と声を潜める。売れっ子になった後を「忙しすぎて映画出演の時、森繁久彌さんや勝新太郎さんらを待たせたのは3分どころではありません」と「3分間待つのだぞ」が流行したカレーのCMをもじった。

 お茶の間でも人気だった大落語家の全盛期を楽しく蘇らせる浪曲を「唯一無二の大名跡。笑福亭仁鶴は永遠にー」と両手をいっぱいに広げって締めると、大拍手だった。

師匠は「色気が欲しい」

 浪曲師は、男女はもちろん、老人から子供の声まで出し分けなくてはならない。

 恵子さんを見守ってきた公益社団法人「浪曲親友協会」の京山幸枝若(こうしわか)会長は「浪曲は年月をかけなくてはうまくならないが、努力家の彼女はよくここまで頑張った。浪曲はなんといっても節が大事です。師匠の百合子さんの域にはまだまだ。あれはもう名人芸やから」と話した。

 師匠の二代目春野百合子さんは、初代真山一郎、冨士月の栄らと並び、関西浪曲界の「四天王」の一人と謳われた。うち一人は幸枝若さんの父である先代の京山幸枝若さんである。

「私も未熟な頃から父に連れられて1日に7か所も回ったりして稼ぎまくった。今の恵子さんや若い人らは可哀そうですわ」と、流行が下火になって長い浪曲界に身を置く後輩たちに幸枝若さんは同情する。

 ちなみに「京山幸枝若が春野恵子をシゴく会」を企画するなど若手を盛り上げてきた幸枝若さんは今年、「芸術選奨文部科学大臣賞」を受賞した。浪曲界では2016年に90歳で亡くなった春野百合子さん以来の栄誉だ。恵子さんについて幸枝若さんは「器用なところがあって芝居なんかもやっているようだけど、私としては、もう少し浪曲に色気が出てくれればいいと思う。ちょっと芸が独特というか、どこかミュージカルを聴いているような感じなんですよ」とも話してくれた。

 色気というのは色艶(いろつや)ということだろうが、下品にならずに「色気」を出すのは一流の芸人でも極めて難しいことだ。

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