初舞台から17年…春野恵子が「浪曲の世界」を語る 9年も前にクラウドファンディング、今年とにかく緊張した公演とは

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前編【電波少年「ケイコ先生」から浪曲師に…春野恵子のいま「最初は東大卒の元女優と紹介されるのが嫌でした」】のつづき

 2000年に「進ぬ!電波少年」(日本テレビ系)で東京大学出身の家庭教師役「ケイコ先生」として人気を博した元女優の春野恵子さんが、浪曲の世界に飛び込んだのは29歳の時だった。いまや海外公演も成功させるなど、浪曲界のトップランナーになった恵子さんを師匠はどう見ているのか。(全2回の2回目)【粟野仁雄/ジャーナリスト】

演歌の大歌手も輩出し浪曲界

 浪曲とは、どういうものなのか知らない方も多いだろう。

≪浪曲(ろうきょく)とは、明治時代初期から始まった演芸の一つ。「浪花節」(なにわぶし)とも言い、三味線を伴奏に用いて物語を語ります。(中略)庶民的な義理人情に訴える作品の他、武芸物、出世物、任侠物、悲恋物、ケレン物と呼ばれるお笑いなど多種多様≫(社団法人「浪曲親友協会」のHPより)

 恵子さんは「語り、音楽……何でもある一人芝居、一人ミュージカルが浪曲」だという。

 浪曲師から演歌歌手になった有名人としては、「王将」(1961年リリース)の村田英雄や「岸壁の母」(1972年リリース)の二葉百合子、「お客様は神様です」のセリフで知られる三波春夫がいる。一時は一世を風靡した浪曲も娯楽の多様化もあり徐々に人気が落ちた。「かたじけない」など、若者があまり知らないような古い日本語が多く使われることもあってなのか、若者のファンがまだまだ少ない。恵子さんは、そんな浪曲を若者にも広めようと工夫を凝らす。

浪曲を身近に感じてもらうための工夫

 8月6日、兵庫県神戸市西区の西神中央ホールで開かれた独演会に恵子さんは出演した。若手の京山幸太さんの「前座」の後、コンビを組む曲師(三味線)の一風亭初月さんと登壇した。

「生の浪曲が初めての人は?」と挙手を求めたところ、多くの観客が手を挙げた。

「浪曲は静かに聴くものではないんです。出てきた時は『待ってました』、始まる時は『たっぷり』、終わったら、日本なのになんでかなとは思いますが『大統領』なんて声をかけて下さいね」と楽しみ方を伝授した。

 そして、現代社会のシングル女性の生態を描いた新作浪曲の一節を披露、さらにホイットニー・ヒューストンのヒット曲「オールウェイズ・ラブ・ユー」で「And I」と長く伸ばす部分に合わせて「えん罪やあー」と歌い上げた。これは浪曲の代表的な演目の一つで、嫉妬深い女に夫との仲を疑われた女性の物語がテーマの「樽屋おせん」(原作・井原西鶴)に登場する一節である。

 メインは隅田川花火のライバルの花火問屋「鍵屋」「玉屋」をめぐり、夫の作った花火を命懸けで打ち上げる女性を描いた「両国夫婦花火」だった。

 久しぶりに彼女の浪曲に接した筆者は上達ぶりに驚いた。以前は若さや一生懸命さが前に出すぎてか、表現がやや直線的だった。この日「ほんまにうまなったわ、よう頑張った」と感激して終演後に泣いている浪曲通のファンの男性もいた。

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