電波少年「ケイコ先生」から浪曲師に…春野恵子のいま「最初は東大卒の元女優と紹介されるのが嫌でした」
浪曲は一人ミュージカル?
浪曲は声、節(曲)啖呵(せりふ)が基本で、まず、声のテストがある。百合子さんから「何か一つやってみなさい」と言われると予想し、「おさん茂兵衛」を練習して挑んだ。テストは楽屋で行われたので、曲師が三味線で合わせてくれた。
恵子さんの浪曲を聞いた百合子さんは「じゃあ、ちょっとうちでやってみますか」と一言。とりあえずオーディション合格といったところだった。
もともと落語には親しんでいたというが、どうして浪曲に魅力を感じたのだろうか。
「落語も講談も基本的には語りのみ。でも浪曲には、音楽があって三味線が合わせてくれる。子どもの頃から『サウンド・オブ・ミュージック』や『ウエスト・サイド・ストーリー』などのミュージカルが大好きでした。語り、音楽……何でもある一人芝居、一人ミュージカルが浪曲だと思ったんです」
恵子さんが弟子入りした後も、彼女がかつて芸能活動をしていたことを百合子師匠は知らなかった。
「年配の方は『電波少年』を見ないけど、初月お姉さん(曲師の一風亭初月さん)がすぐに気づいて『あ、ケイコ先生やんな』と言われたので、『絶対に誰にも言わないでくださいね』とお願いしました」
百合子師匠がたまたま「暴れん坊将軍」の再放送を目にしたことで、「ドラマに出とったんやなあ」とばれてしまった。
女優業になかった浪曲師の魅力
浪曲師として舞台に立つと司会者に「東大卒の元女優の春野恵子さん」などと紹介されることもあった。
「ゼロからスタートしたいのに、そう言われるのが嫌だった」
そのうちに心境にも変化があったという。
「元女優だろうが東大卒だろうが、私への関心がきっかけで浪曲が広まるならありがたいと思い、経歴をあまり隠さないようになりました」
浪曲師と女優にはどのような違いがあるのだろうか。
「芸について言えば、浪曲の舞台では遠くからも見えるように身振り、表情も大きくなりますが、カメラのアップで映される女優は目つきとか細かいところが重要になるので、女優の方が易しい、といったことはありません。一方、キャスティングについては、浪曲は自分で演目も選べるし、舞台の選択も自分で選んだりもできることが女優時代にはない魅力でした」
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