時代劇俳優としての72歳「神田正輝」 40代の時に主演を務めた2つの作品とは

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敵役が多い宗春を主人公に

 そして、もうひとつの主演作が、尾張七代藩主・徳川宗春の生誕300年を記念して96年にテレビ愛知が製作した「痛快大名 徳川宗春~吉宗に挑んだ男」である。

 八代将軍の継承争いに敗れた尾張藩では、悔しさのあまり酒に溺れた徳川継友が急死。その遺志を引き継いだ宗春(神田)は、「大いに楽しむがよい」と開放的な政策を打ち出し、自らもド派手路線でキラキラのお殿様に。おかげで名古屋は芸どころとなり、大繁盛するが、「質素倹約」を志す吉宗(滝田栄=72)とは対立。「このまま好きにはさせませぬ」と怖い顔をする大岡忠相(西岡徳馬=77)率いる公儀御庭番との攻防が繰り広げられることになる。元尾張藩士(本田博太郎=72)は吉宗暗殺を企て、女お庭番(本倉さつき)は宗春の命を狙う!

 時代劇では吉宗を苦しめる悪役が多い宗春が主人公というのは珍しい。実際に宗春の藩主としてお披露目の際の衣服は足袋まで黒ずくめ。頭巾だけは浅黄色で、笠はくるりと反り返った奇抜なデザイン。祭りでは白牛に乗って五尺(1・5メートル)の長煙管の先を茶坊主に持たせて煙草をプカプカ、全身紅色の長いマントで家臣と大行進したという。殿様なのに殿様コスプレみたいだが、興味深いのは、ドラマでは緊迫した闘いが続いても、当の宗春は正義の味方とかではなく、おおらかな自由人であること。このあたりが神田正輝がこの役に抜擢された理由かも。原作は高橋和島の小説「尾張葵風姿伝 徳川宗春」、脚本は映画「トラック野郎」シリーズや吉宗が主役の「暴れん坊将軍」(テレ朝)の鈴木則文、演出は「太陽にほえろ!」や「大江戸捜査網」(テレビ東京)などを手がけた斎藤光正だった。

 直近の時代劇では、暗い過去を持つ米問屋の主を演じた2016年「大岡越前3」(NHK BSプレミアム)がある。孫娘が縁で大岡忠相(東山紀之=57)の父・忠高(津川雅彦=1940~2018)と知り合う話で、「そっかー、孫娘がいる役を演じる年代になったのだな」と感慨深かった。

 時にはしみじみとした人情噺、時にはあっと驚くお殿様。個人的には時代劇にももっと出てほしいと思う。復帰、待ってます!

ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。

デイリー新潮編集部

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