「2週間で3頭のクマを撃った」「自動ドアを開けて子グマが郵便局に」 異常事態に直面するベテラン猟師の密着レポート
「郵便局に子グマが自動ドアを開けて入った」
環境省によれば、今年4月から11月の全国のクマによる人身被害人数が212人になったという。昨年の75人と比べると尋常ならざる増加ぶり。いったい何が……。秋田(70人)、岩手(47人)、福島(14人)……と東北地方が上位を占めるが、次いで挙がるのは、長野県の12人である。その長野県のあるベテラン猟師のクマ撃ちに密着した――。
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人身被害人数増加の原因は「都市型クマ(アーバンベア)」の言葉が示すとおり、人の暮らす場所にクマが現れるからに他ならない。
長野県高山村は長野市内から車で30分ほどの静かな温泉地で、今年6月に棋士の藤井聡太が七冠目となる「名人」を獲得した決戦場の老舗旅館があることでも知られる。
この村で猟師歴45年の宮川仁司さん(67)は言う。
「今年の夏、郵便局に子グマが自動ドアを開けて入ったんだ。すぐに出たけど、そんな話はいくらでもある」
事実、宮川さんは近頃自宅の裏山で重さ130キロ、猟師人生で最大のクマを撃ったという。
「11月15日の猟解禁から2週間、コイツを含めてすでに3頭撃った。こんなに出てくることは今までなかった。今日も出るかもしれないな……」
「クマの足跡だ」
そう言って、同行取材を認めてくれたが街中で撃つわけではない。あくまでも猟区は決められた山の中にあり、そこに潜むターゲットを自らの目で見つけなければならない。
この日は後輩猟師3人と共に山を取り囲む「巻き狩り」という手法を取った。
集落脇の薄暗い杉木立の急斜面を直登して数十分。宮川さんは濡れ落ち葉を指さして言った。
「クマの足跡だ。色が変わっているから1週間ほど前のものか」
そう言われても、素人には分からないが、テリトリーに入ったのだろう。宮川さんは袋からライフルを取り出した。そして、さらに登って杉林を抜けると、稜線は明るいコナラ林だった。コナラの実はいわゆるドングリだが、ここが彼らの「餌場」となる。
「クマもシカもイノシシもドングリを食うからな。でも今年は猛暑で、不作だった」
たしかにコナラ林でありながら、ドングリがほとんど見当たらない。増えすぎたシカが食い尽くしたともいう。
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