高校野球「飛ばない金属バット」を導入も、なぜか有力校は「木製バット」の本格使用を検討…その理由は?

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安全性を疑問視する声も

 来年3月に開幕する選抜高校野球。昨年まで3枠だった21世紀枠が2枠となり、地区による出場校も一部改変されたが、最も大きな変更点が使用できる金属バットの“基準”である。いわゆる「飛ばない金属バット」の導入だ。【西尾典文/野球ライター】

 高校野球で金属バットが導入されたのは1974年。折れることが多い木製バットの経済的負担を軽減することが目的だった。しかし、近年はトレーニングの進化によって、高校球児のスイングスピードや打球スピードがアップした。2019年夏の甲子園では岡山学芸館の投手の顔面にライナーが直撃して頬骨を骨折するということもあり、安全性に疑問の声もあがるようになっていた。

 そのような事故を防ぐために、日本高野連(高等学校野球連盟)は2019年9月から反発力の弱い金属バットの導入を検討。バットの最大直径を従来の67ミリ未満から64ミリ未満と細くし、打球部の金属の厚さを3ミリから4ミリ以上と厚くする新基準を制定した。この変更によって打球速度、飛距離とも従来の金属バットに比べて、明らかに低下するという実験データが得られているという。

 来年春からの導入ということで、早々に選抜出場が絶望的となったチームは、この秋、練習試合で新基準のバットを使用しているところが大半だったという。

 筆者が様々な学校の指導者や選手にその感想を聞いてみたところ、「従来のバットに比べて打球が飛ばない」「打球速度が遅い」という答えが大半だった。

 特に、試合を見ていても感じられたのが、バットの芯を外れた時の打球が弱いことだ。打球音は、金属バットとは思えないほど鈍く、従来のバットであれば、内野の頭を超えていたようなフライ性の打球が、平凡な内野フライになるケースが頻繁に見られた。

「そこまで極端な違和感はないという選手が多い」

“選抜の前哨戦”と言われている11月の明治神宮大会では、北海(北海道)が唯一新基準のバットで臨んだが、作新学院(栃木)を相手に9回までわずか3安打、0点に終わり、延長10回タイブレークの末に1対2で敗れている。

 北海の平川敦監督は試合後、「(『飛ばない金属バット』に対応するのは)難しいですね。芯に当てる技術を磨く必要があります」と話している。また、バットに慣れる必要があるのは、打撃だけではない。守備についても、今までより打球が飛ばず、感覚がずれると話す選手が多かった。

 ただ一方で、打撃に対する取り組みや戦い方が大きく変わるかといえば、そうとも言えないという。

 昨年夏の甲子園で東北勢として初優勝を果たし、今年も準優勝に輝いた仙台育英の須江航監督は、以下のように話してくれた。

「確かに芯を外れると飛びませんし、芯でとらえても打球速度は落ちますが、金属バットは金属バットですから、そこまで極端な違和感はないという選手が多いですね。全国トップレベルの投手と新基準のバット(飛ばない金属バット)で対戦してみると、難しいと感じるのかもしれませんが……。だから、今のところはバットが変わったからといって何かを大きく変えるという判断はしていません。打球速度が落ちて飛ばなくなった分を補うために、(トレーニングなどで)目標としている数字を少し上げようかというくらいです。うちは秋の県大会(宮城県大会)で早々に負けたので、選抜で全国レベルのチームがどんな感じになるかというのをしっかり見て、また夏に向けてどうしていくか考えたいと思います」

 2001年秋にも、バットの重さを900グラム以上にするなどの改定が行われているが、そこから露骨に“スモールベースボール”が主流になるということはなく、その後も多くの強打のチームが高校野球を席巻している。

 話を聞いた複数の指導者や関係者からも「守備や走塁がより重要になってくる」という声は聞かれたが、どちらかというと「飛ばない金属バット」に対応できるだけの打撃技術をつけることが重要という声の方が多かった。

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